コスト削減の取り組み 現場レポートNo.1

着工から運転開始まで世界最速に挑む。

熱効率世界最高クラスの火力発電設備、その建設ミッション。

熱効率世界最高クラスの火力発電設備、その建設ミッションのイメージ写真

熱効率世界最高クラスの火力発電設備新設。

現在、発電において火力の占めるウェイトが増大しており、そのコスト削減の重要な施策の1つとして、高効率発電設備の導入が急務となっています。東京電力では川崎火力発電所にて熱効率世界最高クラスの発電設備(通称:MACCⅡ)の新設を世界最短工期で進めています。
この新たな火力発電設備の運転開始後には、発電設備1基につき年間約170億円のコスト削減効果が見込まれます。

効率の良い火力発電設備の導入イメージ

未体験の工程にチャレンジ。「とにかくやってみよう」。

「工期短縮の要望をお話ししたとき、発電設備を担当する主機メーカーさんも土木建築を担当する建設会社さんも、当初はかなり戸惑いがありました」。東京電力川崎火力建設所の機械グループ主任・横溝は、2012年11月に遡る計画立ち上げの頃の様子をそう語る。そのような反応が無理もないことは横溝も重々理解していた。
この計画で建設するのは世界最高クラスの熱効率を備えた最新型の火力発電設備。つまりその場の誰にとっても初めて扱う機種であり、従来機種と同じ工程でさえ完成に漕ぎ着けるのは困難が予想されるものだった。もちろん安全の確保は絶対条件だ。「やったことがない」「無理だ」「責任が持てない」・・・そうした意見が会議室を占めた。
しかし、工期短縮の社命を受けた横溝には常にひとつの思いがあった。原子力発電所が停止している状態で、発電量の大部分を火力発電所で担っており、なかには古い設備をなんとか稼働させている発電所もあった。過去に経年火力発電設備の運転経験もある横溝には、そこにどんな困難があるのかが手に取るようにわかった。効率の良い設備を少しでも早く稼働させたい。横溝には、工期短縮の社命を自分自身の思いとして捉え、取り組むだけの強い思いがあった。
川崎火力建設所の会議室では、工期短縮のための討議が連日のように行われた。特に綿密な検討が求められたのが、建屋を担当する建設会社と、発電設備を設置するメーカーの間の調整だった。各グループの代表が参加し、懸案の洗い出しと共有が行われ、工程をさらに詰めていく。誰もがギリギリの判断と選択を迫られた。
チャレンジング。とにかくやってみよう。それが横溝たちの合い言葉になった。やがて工期を1~2ヶ月短縮する目処がつき、具体的な計画段階でそれが3~4ヶ月になり、最終的には6ヶ月の短縮を目指す、これまでに無い工程が決定した。

工期短縮の指揮をとる横溝貴幸(川崎火力建設所 機械グループ)

工期短縮の明暗が掛かる、クレーンの上架(設置)。

着工後も工程の調整は続き、むしろ一層の綿密さを求められる作業となっていった。なかでも特に大きな山場となったのが、発電所の建屋内に設置する天井クレーンの上架だった。天井クレーンは、建屋内に資材・部品を運び、組み立てることに使用するため、建設工期全体に大きな影響を与える。しかも、建屋の壁面の開口部から搬入するため、建設工事を一時ストップさせる必要がある。工期を短縮するためには、絶対に遅れが許されない工程だった。
その工程管理にあたっての課題が、少しでもコストを下げるために、海外(インド)の工場で製作を行っている点にあった。特に苦慮したのが品質管理だ。国内工場であれば自ら足を運んで品質や進捗状況を逐一チェックできるが、海外の工場ではそれもままならない。しかも他の工程と同様に製作期間の短縮も要請しており、日本までの輸送期間も考慮する必要があった。
最も避けなければならないのは、いざフタを開けてみたら製作が進んでいなかった、不具合があるというリスクだった。クレーンが納品され、仮にそこでやり直しなどが発生すれば工期短縮もアウトになる。最高品質、かつあとは設置するだけという状態でなければ、それまでの努力が全て無駄になってしまうのだ。結局、上架の時期が確定したのは上架予定日の1ヶ月前。通常の工程ならば半年ほど前には決定している事項だった。横溝はクレーンメーカーの担当者と綿密に連絡を取り、できるだけ海外の工場に赴き状況把握するように要望したが、それでも不安は尽きなかった。
そうしてようやく、無事に建屋内にクレーンを取り付けた日のことは、今も横溝の心にはっきりと印象深く残っているという。

建屋開口部から搬入し上架されたクレーン

更なるコストダウンに取り組んだ建屋拡張。

横溝につきつけられたもうひとつのミッションが、メンテナンス作業のスペースをより広くするため、建屋を当初計画よりも拡張するというものだった。少しでも工期を詰めようとしているとき、なぜ設計を見直してまで対応する必要があったのか。横溝の答えは簡潔だ。「運転開始後のメンテナンスの効率化はコストの削減に繋がるから」である。
これはメンテナンス担当スタッフからの要望だった。作業スペースが広がれば、それだけ作業効率が向上し、メンテナンスのために発電設備を停止する期間を一日でも短くできる。つまり建設工期を一日早めるのと同じ燃料費のコスト削減効果が見込めるのだ。しかもメンテナンスは何年にもわたって繰り返されるため、長い目で見れば建設工期短縮よりも大きなコスト削減効果が期待できる。イニシャルコストだけでなく、末永いランニングコストまで見越した発想だった。
工期短縮が叫ばれている中、建屋拡張の工程を加えることは相当のインパクトがある要望だった。しかしそこにチャレンジする価値があることを知る横溝に迷いはなく、またその思いに呼応するような建設現場の尽力によって、目指していた短縮工程に影響を与えることなく建屋拡張工事を実現可能とした。

建屋内のMACCII

電力安定供給のため、コスト削減、合理化へのチャレンジは続く。

よくやり遂げたな。それが横溝の率直な感想だ。厳しいミッションではあったが、初めから無理だとは決して思わなかった、と横溝は語る。やってみなければわからない、という思いの支えとなったのは、これまで10年余り携わってきたメーカーとの信頼関係だった。「お互いの状況も気持ちもわかっている環境があったのは大きいです。とにかくやってみよう、がんばってみようという気持ち、そのような雰囲気から入れたのが良かった。自分たちの取り組みを“チャレンジング工程”と呼んでいましたが、そうした言葉も気持ちをひとつにする上で良かったのかも知れません」。またメーカーや建設会社にとっては、この工事の経験が「うちなら世界最短の工程で、最新型の火力発電所を建設できる」という実績、ノウハウになることも横溝は願っている。
一刻も早く電力を低コストで安定供給できる体制に。厳しい工程の中でも、達成すべき目標があり、明確なゴールがあることで、そこに向かって邁進するモチベーションを持てたという。「私は普段お客さまに接したり、お話を伺ったりする機会がありません。ただ、自分の仕事がお客さまへの貢献、そして旧型の火力発電所でがんばっている仲間の手助けに繋がると信じています。ですから工期短縮のミッションに対しては、自然に気持ちが高まりました」。
工期短縮によって、世界最高クラスの熱効率を誇る発電設備は、当初計画よりも6ヶ月早い、2016年1月の営業運転開始を目指し工事と試運転が進んでいる。さらに約9ヶ月の時間差で、同機種をもう一基建設する工事も進行している。こちらは6ヶ月短縮の実績をベースに8.5ヶ月の工期短縮を目指すという。低コストで、より安定的に電気が供給できる体制を、一刻も早く。そうしたモチベーションのもと、既に自己ベスト更新への挑戦が始まっている。

2基目の建設が並行して進む

MACCIIとは

コンバインドサイクル方式による最新設備の東京電力内における呼称で「More Advanced Combined Cycle Ⅱ」の略。コンバインドサイクル方式とは、ガスタービン(飛行機にも用いられるジェットエンジンで燃焼ガスを作りタービンを回すもの)と、ガスタービンが排出する高温の排気熱を無駄にせず、再利用した蒸気で回す蒸気タービンを、同一の軸上に設置し発電効率を高めたもの。最新型の「MACCⅡ」では、熱効率向上の決め手となるガスの燃焼温度が1,600℃に達し、世界最高クラスの熱効率(約61%)を実現している。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)

肩書は取材時のものです。

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