コスト削減の取り組み 現場レポートNo.2

「宙乗り」に代わる点検の目。

新技術を駆使し、効率的かつ低コストの点検方法を導入。

新技術を駆使し、効率的かつ低コストの点検方法を導入のイメージ写真

新技術で送電線点検コストを低減。

東京電力管内には回線延長28,145kmの送電線があり、その点検作業は、高所作業を担当する電工という専門職が送電線に乗って目視確認する「宙乗り点検」で行われてきました。「宙乗り点検」は電気を停める必要があり、また作業に時間を要することから、より作業を効率化し低コスト化する方法を検討した結果、2012年度から高倍率スコープによる地上点検を、2014年からはハイビジョンカメラ搭載のヘリコプターによるVTR点検を導入しました。
これらの取り組みによって送電線点検作業の効率化を図り、年間約4.4億円のコスト削減を実現しています。

新技術を駆使し、効率的かつ低コストの点検方法を導入のイメージ写真

大幅な点検効率化を実現した、高倍率スコープの導入。

寒空の下、入社9年目の中村は、送電線点検のため三脚に据えたスコープを覗き込んでいた。ディスプレイは細部を視認できるほど高倍率に拡大された送電線を捉えている。「効率的な点検のためには、スコープを設置する最初の場所決めが重要です。太陽の位置を考えつつ、途中で移動せずにより広い範囲が見えるように」と中村は言う。
東京電力では総延長28,145kmに及ぶ全ての送電線について、一カ所ずつ、大きな異常がないか確認を行っている。そうした作業を積み重ね、送電線全体を30年かけて点検するスケジュールが組まれている。
東京電力では、送電線点検のほとんどを、電工と呼ばれる社外専門職や東電社員自身による「宙乗り」によって実施してきた。これは人が実際に鉄塔を昇り、専用の器具で送電線にぶら下がり、目視と手触りによって点検作業を行うものだった。中村も、これまで多くの現場で宙乗りを経験していた。しかし宙乗りは、機材を準備し、鉄塔まで移動し、鉄塔に昇り、送電線を渡るという手順に多くの時間と労力を要する。また点検箇所の電気を停める必要があるため、柔軟な予定を組むことが難しかった。
しかし2012年度に高倍率スコープが導入され、点検にはスコープが第一に用いられるようになった。スコープ点検は時間も費用も圧倒的に早く安い。宙乗りで点検できるのが1日4径間(鉄塔と鉄塔の間)ほどのところ、スコープならその倍の距離が点検できるという。しかも電気を止めずに点検でき、送電線に上がる必要が無いため作業員の墜落や工具類の落下などのリスクも低減できる。宙乗りができる作業員による点検が不要になったこともコスト削減効果を生んでいる。
「送電線に重りの付いている箇所や金具のある箇所は、送電線のわらい(送電線を構成する素線の部分的なたるみ)が起きやすいんです」と、中村は送電線に目を凝らす。これまで宙乗りで培ってきた点検ポイントの蓄積はスコープ点検にも受け継がれている。自分の手で触れないからこそ、不具合は決して見逃さない。常にそうした緊張感をもって点検に臨んでいるという。

宙乗り点検を行う、上:上村亜未(送電保守グループ)、下:高橋義孝(工務サポートグループ)

スコープ点検を行う中村祐太(送電保守グループ)

ハイビジョン映像が可能にした、ヘリコプターによるVTR点検。

高倍率スコープと同様に、送電線点検の効率化を目指す新技術として導入されたのが、ヘリコプターを活用した、国内初となるハイビジョンVTR点検だ。その導入を先導したのが、塩尻送電所に勤務する加部だった。「元々ヘリで画像を撮る技術はありましたが、送電線の点検には鮮明度が足りませんでした。しかしハイビジョン映像なら目視と遜色ない、むしろ同等以上のデータがとれると考えました」と加部は語る。
導入にあたって加部は、自身もヘリコプターに同乗し、映像や現場の様子を確かめた。そこで目にしたのが、山間地でも機体の揺れを抑えるパイロットや、送電線を映像の中心に捉えようとするカメラマンの技術、そして気迫だった。現場にこうした気持ちと技術があれば、VTR点検は絶対できる。加部はたしかな手応えを得た。
またコストとの折り合いについても入念に検証した。目標は、他の電力会社と同等、もしくはより低いコストに抑えることだった。ヘリコプターは飛んでいる時間と金額が比例する。飛行速度を速くすれば安上がりになるが、精度は足りない。とはいえゆっくり飛べば時間がかかり費用も増す。送電線を何本ずつ撮れば効率的か。適切な速度は12km/hか10km/hか、あるいはそれ以下か。検証を繰り返した。そして送電線の撮影本数は一度に2本、飛行速度は12km/hが、コストとクオリティのベスト・バランスだと導き出した。
またヘリコプターの利用場面も、騒音問題の少ない山間部と、27万5千ボルト以上の大きな設備に的を絞ってコストダウンを図ることとした。さらに、映像データをストックできるため、VTR点検では経年の劣化進行も一目瞭然で確認できるという利点も見込めた。
こうした検証には、従来なら一年ほどの時間を要したはずだ。しかし加部は、実際の送電線での試験を含め約半年で導入の目処を立てた。「これまでは鉄塔まで歩いて2時間、130メートル級の鉄塔に昇り、送電線を1径間渡る。それだけで1日。労力、安全ともに苦労していました」という山間部が多い塩尻の現場で、送電線点検の苦労を重ねてきた者ならではの切実な思いがそこにあった。

ヘリコプター点検を実現した加部信義(塩尻送電所保守リーダー)

「宙乗り」は不要なのか。現場の不安に検証で応える。

ヘリコプター点検の導入に取り組む加部に対して、当然社内から「ヘリコプター点検で、実際に手で触る宙乗り点検の代わりが本当にできるのか」という声が上がった。これはスコープ点検の導入に対しても同様であり、精度への不安や、「送電線を手で触るのが我々の技術じゃないか」という反発が新技術に対して突きつけられる格好になった。
加部はそうした声に応じるべく、導入に先だって「ここまで見られる」という入念な検証を重ねた。最も問われたのは、触診や間近での目視と同じ点検品質が得られるのかという点だった。映像では、画像に写っている側は目視できるが、送電線の裏側を見ることはできない。しかしそこでブレイクスルーとなったのは、他でもない、これまで宙乗りの現場で培われ、先輩から後輩の社員へ脈々と受け継がれてきた、電工と呼ばれる専門職の技能だった。
仮に送電線の裏側がひどく損傷を受けたり、わらいが生じたりしている場合、その痕跡は表面にも現れる。熟練した電工は、そうした異常の予兆を、直接見えない側からでも察知する。さらにどの部分に異常が生じやすいかを経験的に知っている。必要なのは、そうした経験を画像に置き換えた時にどう活かすかという発想だった。
加部は、様々な角度、距離、高さから撮影した映像を検証した。そして自分自身、長年の宙乗り経験で培った目により、ハイビジョンの画質であれば、たとえ送電線の見えない側に不具合があったとしても、わずかな兆候から発見できることを確かめた。一瞬一瞬をしっかり見ることで、送電線の不具合は発見できる。これならいけると、加部は確信した。幾度も検証が行われ、この倍率なら宙乗りと同等の点検品質を担保できる、という判断がなされた。

機内のカメラ操作卓で送電線を捉える。

コスト削減をかなえつつも、継承されていく人的技術。

「ヘリコプターによって、点検効率は断然高くなりました。とはいえ、新技術の導入によって宙乗りの技術がなくなることはあり得ません」と加部はきっぱり言う。ヘリコプター点検はより効率的に点検を行うための技術であり、部品の取り替えなどは従来どおりの宙乗りの技能を抜きにしては立ち行かないのだ。
奇しくも同様のことを口にしていたのが、スコープ点検を行う中村のチームでリーダーを務めていた、入社16年目の高橋だった。遠くから送電線を点検できたとしても「例えば電線にビニールが引っかかっているのを見つけたら、実際にそれを排除に行く人材が必要。そのために宙乗りの技術は残す必要があり、若手への技術継承が不可欠です」と語る。いま、若い人のなり手が減り、電工の高齢化が進んでいるという。技能習得のシステムは会社として確保されている。しかしそれだけでは身につかない、現場で脈々と受け継がれてきたノウハウの数々があるという。
高橋の言葉を受けるように、同じチームで点検にあたっていた入社1年目の上村が言う。「電線に上れる若い人が育たないと、いざというときに対応できなくなります。だからこそ、先輩方から宙乗りの技術を学んでいきたい」。新技術によってコスト低減をかなえながらも、電気というライフラインを守る人の手による技術は、確かに継承されていく。

協力会社:新日本ヘリコプター
「電線という被写体の難しさ。」

飛行には対気速度(気流に対する速度)と対地速度(地面に対する移動速度)があります。低速飛行は不安定になりやすいため、風向きや風速に合わせ対地速度を一定に保つことが重要です。また冬場は陽が当たるところと山影のコントラストが強いので、視界を確保するよう偏光サングラスなどで対応しています。
撮影については、電線がきちんと中心に映るよう心がけながら、光線が逆光に近いところはカメラ位置を斜めにするなどヘリコプターの操縦で工夫をします。電線に不具合がある場合、撮影時にもわかります。一瞬、画面の中を通過する4コマ、4/60秒くらいの映像です。こうした視認には習熟が必要ですし、解像度が悪い映像では不可能です。ハイビジョンだからこそのクオリティといえます。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)

肩書は取材時のものです。

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