コスト削減の取り組み 現場レポート No.7

フィールド、ラボ、現場が強力なスクラムを組んで前進。

目視でわかる電柱のひび割れと、劣化の関係をデータベース化。

目視でわかる電柱のひび割れと、劣化の関係をデータベース化のイメージ写真

電柱の暴露試験などで最適な取り替え時期を判断。

我々の住む街のいたるところに立つ電柱(配電コンクリート柱)は、電線と電線とをつなぎ安全に電気を供給するための重要な設備です。
その数は、東京電力の管轄地域だけでも何と約600万本にも上ります。この大量の電柱の取り替え時期をいつにするか――。これはかねてより大きな課題でした。しかし、これまで電柱の寿命に関する事例、知見、本格的な研究はありませんでした。
そこで東京電力は、日本で初めてこの研究に取り組み、(1)フィールドでの暴露試験(2)ラボ(実験室)での評価試験(3)現場での調査の3つをベースに「合理的で、きめ細かな調査・管理基準」を制定。年間約100億円のコスト圧縮を実現しました。

年間約100億円のコスト圧縮

海岸の近くの試験場――台風の衝撃の2倍以上の荷重で暴露。

日本有数の漁港として知られる千葉県の海岸の近くに東京電力の暴露試験設備の一つがある。田園の牧歌的な風景を抜けると、たくさんの配電コンクリート柱(以下、主に「電柱」と表記)がフィールドに並んで立っているのが見える。電柱は、すぐ横に並んでいる支え柱と先端部(天辺)でワイヤーによってつながり、滑車を通して荷重がかけられている。そのため電柱の前まで行くと、何カ所か「ひび割れ」を起こしているのがわかる。
荷重は風速40mの台風による衝撃の2倍以上の500kgを中心に、400kg~600kgに設定してある。こうした大きな荷重で常に引っ張ることにより、電柱の劣化を試験し、定量データを取得・蓄積して、電柱の取り替え時期のきめ細かな設定に役立てるのが目的だ。東京電力の経営技術戦略研究所(横浜市鶴見区)技術開発部 環境材料技術グループの主席研究員で、「腐食評価・対策技術のスペシャリスト」でもある市場(いちば)がフィールドに並んでいる電柱を前に語る。
「東京電力の管内には約600万本の電柱があり、そのほとんどがコンクリート柱。これまでは、都市の成長と人口の増加に伴って電柱の更新(取り替え)を随時行ってきた。しかし、これからは、電柱を安全に管理し、適正な交換時期を見極めてから効率的に交換を行っていく必要が出てきた。かねてから本社(東京都千代田区内幸町)や研究所でも『電柱は長寿命だが、寿命に関する事例も知見もない。長期にわたり健全に維持し、管理していくためにはデータが必要で、お客さまにもわかりやすく説明でき、しかも効率的に立て替え時期を判断できるような目視でわかる基準を確立したい』との考えがあり、その共通の思いがあったからこそ、関係者どうし一丸となって今までにない試験体制を作り上げることができた。」

海岸の近くの試験場のようす

徐々に浸透していった、新スキームへの理解。

そこで最初に取り掛かったのが、何本もの電柱を並べて立てることができる広い場所を探すことだった。そこで、本社と研究所が協力して電柱の置かれている様々な環境を模擬できるように内陸や海岸地域に試験場所を確保した。実際の試験は2007年からスタート。当初は130本の電柱を並べていたが、現在は電柱の一部を輪切りにしたり切り取ったりした小型の試験片を検査の対象として加え、電柱の数は、109本。それが、どのように劣化していくのか――。「ひび割れた個所から雨水が入って、電柱内の鉄筋が錆び、細くなり、脆(もろ)くなる。これが劣化の最大の原因」だと市場は続ける。
配電コンクリート柱は標準サイズで直径が約40cm、高さは14mほどで、上に向かって細くなり、上部の直径は約20cm。内部は中空のドーナツ状で、外側の5cmほどの厚さの円周部に15~30本の鉄筋が組み込まれている。同電柱はコンクリート部と鉄筋の一体成型により製造され、コンクリート部は水分が飛ばされる遠心成型によって、気泡のない緻密な組織になっている。そのうえ、コンクリート部は、コンクリートが硬化する前に鉄筋に引張力を付与し、硬化後に引張力を解放して圧縮力を持たせた「プレストレスト・コンクリート」であることから、柱全体が非常に強固な構造でできている。
しかもコンクリート内は強アルカリ性のため、通常、鉄筋は錆びないが、コンクリート部がひび割れると、そこから雨水が入り、錆びる。この「ひび、錆びと電柱の劣化の関係をデータ化」できれば、電柱の劣化の状態を評価・判断することができるというわけだ。

暴露試験場に並ぶ、配電コンクリート柱

腐食工学や材料工学の専門性を活かして研究をサポートする市場幹之(経営技術戦略研究所環境材料技術グループ)

2万数千枚の観測写真などから、ひび幅と錆び、劣化の関係をデータベース化。

電柱の仕様は、メーカーや製造された時期などによって少なからず差があるため、フィールドでの試験は、未使用の電柱や使用中の電柱を移設したものまでを含めて、多様なタイプの電柱を並べておこなわれている。電柱内部の鉄筋の状態は、磁気やレーザーを用いた最新の機器を用いて計測するが、データの基本は職人技が生かされる。ひび割れた個所を詳細に見るためにその真ん中あたりの一点に三角形の印をつけ、この点を中心に約200倍に拡大できるマイクロスコープで定期的に撮影。ひびの長さと幅を0.01mmの精度で読み取っている。
高い所にできたひびは、高所作業車に乗り、夏は炎天下で汗を流しながら、年間に2600個所のひび割れを定点観測し、これまでに2万枚以上の写真を集積するとともに、電柱の劣化の状態との関係をデータベース化。こうした作業の積み重ねによって、2011年3月の東日本大震災後には、「鉄筋の錆びは、ひびの幅と相関関係があることがわかり、ひびの幅から錆びと電柱の劣化の状態を推測できるようになった」(市場)――まさに目に見えない電柱内部の劣化を評価する上で、この上ない大きな成果である。だが、これらの成果は、フィールド試験で得られた定量的データだけで実現されたものではなかった。

電柱に記された、ひびの定点観測の記録。三角マークを中心に200倍のマイクロスコープで読み取る。

合理的な調査・管理基準で取り替え本数を大幅削減。

こうしたフィールドとラボ(実験室)との二人三脚による真摯な取り組みに、電柱に関する豊富な知識やノウハウをもとにした現場での調査が加わり、“三位一体”となって力を発揮。ひび割れの幅をはじめ、ひび周辺の剥落状態、電柱の種類・タイプによる特性などに基づいた合理的な調査・管理基準を本社が制定し、大きな経営合理化という効果を挙げている。
本社のパワーグリッド・カンパニー 配電部 配電技術グループの石井によれば、「従来は年に3万基の電柱を取り替えていたので、全体で約240億円かかっていた。しかしこの基準を採用できたことで、2014年は、取り替え本(基)数が43%減となり、約126億円にコスト圧縮できた」
東京電力の管轄地域にある600万本の電柱は、街中、農村、山の中、海辺の近くなど、様々な環境に設置されている。このため海岸近くの試験場と並行して、内陸部の茨城県でも同様の試験をしている。電柱の暴露試験設備の管理には、一般的な暴露試験とは異なり電柱の建設、解体、高所の調査、金属やコンクリートの分析など多様な社外機関やメーカーの協力が必要とされる。東京電力の研究拠点である経営技術戦略研究所と、外部の研究機関の協力・活用が、業界に先駆けた配電コンクリート柱の評価基準の確立につながった。それにより目に見えた大幅な合理化に結実したが、今後さらにその成果が、生かされていくことが期待される。

配電設備の知識を活かしてフィールド試験や研究をリードする渡邊憲一(経営技術戦略研究所環境材料技術グループ)

管理基準の策定などでコンクリート柱の技術を統括する石井綱吉(パワーグリッド・カンパニー 配電部 配電技術グループ)

定説を覆し腐食防食学会の技術賞を受賞――反応機構を解明し公的規格に。

さらに電柱に組み込まれている鉄筋の腐食試験では、40年ほど前にヨーロッパで提案された「チオシアン酸アンモニウム溶液の中に、荷重をかけながら鉄筋の試験片を浸漬させ、何時間で鉄筋が切れるか」という方法が知られている。しかし必ずしも細かい試験手順が決まっていないこともあって、かねてから結果にバラツキがあるのが問題だと指摘されていた。
市場、渡邊らは、この問題に挑戦。研究を重ねて原因を追求し、試験結果の再現性の向上に成功した。具体的には、試験に影響しそうな30以上の要因を丹念に調べ、従来提案されていた試験溶液中での鉄筋の腐食反応では現象を説明できないことを確認した。腐食反応で生成する物質を精密に分析し、溶液中の酸素とチオシアン酸イオンの関与する2つの反応が同時に進行する新しい反応機構を仮定することで現象をうまく説明できることを見いだした。この反応機構に従い試験手順や装置を見直すことで試験の再現性が大きく向上し、フィールド試験結果の判断についても信頼性が向上した。
この成果に基づきメーカーや識者の協力も得て公的規格が制定され、昨年(2014年)、公益社団法人腐食防食学会の技術賞を受賞。現在では他の分野でも活用されている。これもまさに快挙であり、経営技術戦略研究所の技術力の高さをあらわす一例といってもいいだろう。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)

肩書は取材時のものです。

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