コスト削減の取り組み 現場レポート No.8

本社、研究所、水力第一線職場が三位一体で。

半世紀以上前の国内外の文献も調査。チャレンジ精神で技術的な課題を解決。

半世紀以上前の国内外の文献も調査。チャレンジ精神で技術的な課題を解決のイメージ写真

水力発電所の発電機固定子巻線(コイル)の余寿命を解析しコスト削減。

発電所の発電機は負荷変動に応じながら安全に運転を継続するため、一定の絶縁性能を有したコイルが取り付けられています。このコイルの絶縁耐力値は使用年数に伴い低下するため、余寿命診断を行い、今回検討の対象とした玉原(たんばら)水力発電所(群馬県利根郡みなかみ町)の発電機コイルの場合、「運転開始時から34年」で巻き替える予定となっていました。そこで、余寿命診断の考え方を整理し、全発電所一律となっていた管理値の見直しに着目しました。具体的には、雷によって生ずる過電圧を解析し、絶縁性能を適正に評価することによって、巻替時期を6年延伸することができる見込みを得ました。これによるコストダウンは総寿命期間(40年)で約1億2000万円に上ります。解析は発電能力の大きい揚水発電所の玉原発電所の1号発電機(※)を対象にしましたが、東京電力には揚水発電所が9つあり、運転する発電機も約30台と多いことから、今回の成果を今後の経営合理化に大きく生かしていく方針です。
(※)発電機と電動機の機能を兼ね備える発電電動機であるが、便宜上「発電機」と記載

発電機1台で、約1億2000万円(総寿命期間=40年)のコスト削減

本社、第一線職場で見直しの声――昨年4月に研究所に話が……

電力会社の発電所で発電された電気は、高い鉄塔に張られた送電線(電力線)、変電所、市中の配電線などを介して、企業や家庭、商店などのお客さまのところに供給されている。この電気の供給の源(みなもと)を担う発電所、さらにその中核的設備である発電機にとって最も大切なのは、言うまでもなく、安定的に稼働し電気を供給し続けることである。このため落雷などにより発生する過電圧に耐えられるように、発電機には絶縁性のコイル(固定子巻線)が取り付けられている。このコイルの耐電圧性能(絶縁耐力値)は使用年数に伴い低下。従来は絶縁耐力値が「2E(Eは発電機の定格電圧)+(プラス)1kV【管理値】」まで低下した時点でコイルを巻き替えていた。
だが東京電力では、本社(東京都千代田区内幸町)でも発電所を所管する第一線職場でも、この管理値を見直し、コイルの総寿命期間を延伸させることができるのではないかという意見・提案が出されていた。このため様々な技術的課題を検討・審議する本社の工務部技術委員会で、この問題が取り上げられ、数年後にコイルの巻替時期が迫っていた揚水発電所の玉原発電所・1号発電機(定格電圧13.2kV)を対象に、運転中に発生する過電圧を解析して、コイルの巻替時期を見直すプロジェクトがスタート。本社から経営技術戦略研究所(横浜市鶴見区)の幹部を通して、同研究所 技術開発部 高電圧・絶縁技術グループの主任研究員である坪井と同・主任の植田(うえた)に話が持ち込まれた。昨年4月のことである。

発電機コイル(葛野川4号機)

経営技術戦略研究所内、実験所(横浜市鶴見区)

「コスト削減に貢献しよう」と即座に判断――他分野への展開も。

その時のことを坪井はこう回想する。
「私たちは高電圧・絶縁技術を研究する専門部隊で、送電線や変電設備を対象とした雷サージ解析(サージ電圧=瞬間的に発生する大きな電圧)は日常的に実施しているが、発電機に関する解析はこれまで経験がなく、知見もあまりなかった。そのうえ、当グループには水力発電部門の出身者もいなかったが、話を聞いた瞬間、『是非、チャレンジしよう。巻替時期を延伸させることができれば、コスト削減に貢献できるし、自分たちの保有技術を他分野へ水平展開して、大きな成果が期待できるのではないか』と思った」――そこで、「次のリーダーとして期待される植田に(主要な研究を)任せよう」と考えたという。

技術検討の総括を担当した坪井敏宏(経営技術戦略研究所技術開発部高電圧・絶縁技術グループ)

現場調査、実際の打合せなどを通じて連絡を密に。

その植田は、このプロジェクトの主管部である本社の工務部 水力発電グループの笹本(計画チームリーダー)、岡本(計画チーム)、高見沢(技術チーム)、および渋川支社沼田制御所 発変電技術グループの戸塚、同支社 奥利根制御所 発電技術グループの折茂(玉原発電所は奥利根制御所が管轄)ら現場のメンテナンスや制御の担当者とeメール、電話、実際の打ち合わせ、そして本社、研究所、現場をつないだテレビ会議などにより連絡を密にして、一丸となって技術委員会での指摘事項に対応するとともに、現場に足を運んで調査した。

解析・絶縁評価の実務を担当した植田玄洋(経営技術戦略研究所技術開発部高電圧・絶縁技術グループ)

一から勉強――調査・研究を重ね“管理値見直しに成功”。

それと並行して植田と高見沢は、従来の管理値である「2E+1kV」が、どのような根拠に基づいて決められたのかなどについて、一般財団法人電力中央研究所の文献や国内外の文献を幅広く探して、一(いち)から勉強・研究。「100年ほど前に欧米で経験値に基づいて安全率2倍と決められた」ことを見つけ出すとともに、発電機コイルの絶縁診断をするうえで最も肝腎(肝心)な「発電機にとって支配的なストレスとなる雷サージ過電圧を交流電圧に換算する手法」について、60年以上前の海外文献等も調査し、総合的に評価・換算する道筋をつけたという。
坪井と植田は、この研究結果をもとに、いろんなシミュレーションを検討しながら、電力系統の回路現象解析ソフトウェア「EMTP(Electro Magnetic Transients Program)」を活用して、玉原発電所から順次、並んでいる各鉄塔に300年に1回の頻度までを想定した大きな雷撃があったという最苛酷な条件を設定して雷サージ過電圧を解析。その結果、現行全電力で採用されている「2E+1kV」の見直しを可能とした。これにより管理値を「1.5E」にすると、従来の発電機コイル寿命特性線で34年としていた巻替時期が6年延伸して40年となり、総寿命期間で約1億2000万円のコストダウンが達成できることになった。まさに「100年ぶりの快挙」である。

水力発電所適用基準の見直しを担当した高見沢勇太(パワーグリッドカンパニー工務部水力発電グループ)

9つの揚水発電所の発電機31台にも同様の解析実施へ。

昨年4月に経営技術戦略研究所に発電機コイルの寿命見直しプロジェクトの話が持ち込まれてから、坪井と植田は3カ月という超スピードで国内外の文献を読み、様々な問題点を解決して雷サージ過電圧の解析モデルを作成。昨年12月には「発電機(コイル)余寿命診断の見直し方針」が本店 工務部 水力発電グループによって決定された。
東京電力は夜間の電力を使って貯水池の水をダムに揚げ、昼間、発電させる揚水発電所を9つ稼働させていて、発電機の台数は玉原発電所の1号機(同発電所には4号機まである)を除いて31台ある。揚水発電所は発電能力が大きいことから、今後、全揚水発電所の発電機コイルを対象に今回と同様の解析を実施し、コストダウンの効果を一層、高める計画だ。
さらに一般水力発電所(155個所、252台)の発電機に関しても、本社主管部に駐在(一時的な駐在)となった発電所現場の若手が研究課題にしたことから、坪井と植田が全面的にサポート。さらに植田は「コイルの新しい材料なども勘案して寿命特性線を再検討し、コストダウンに寄与できればと考えている」と研究を深めているが、今回のプロジェクトについて、「困難もあったが、それらを解決する過程で、発電機を対象とした電気現象がいろいろとわかって、正直、楽しくできたというところもあった」と笑顔を見せる。
発電機コイルの寿命延伸による経営合理化は、本社、研究所、現場が三位一体となって取り組んだ成果だが、もう1つ、坪井、植田の上司部下を越えたコンビネーションと周りのメンバーのサポートが果たした役割も極めて大きいと言える。

世界初の非標準雷インパルス波形評価技術も開発。

2人が属する高電圧・絶縁技術グループは、非標準雷インパルス波形発生装置を設計・構築し、5年以上にわたる実験で蓄積した数百ケースのデータに基づき、任意の非標準雷インパルス波形を標準雷インパルス波形へ換算できる世界初の波形評価法を開発。
同評価法は国内標準化済みで、今後IEC(国際電気標準会議)規格への反映で、国際標準化される見通しであるなど、世界的にも高い技術力を誇っており、本技術で第63回電気科学技術奨励賞および文部科学大臣賞を受賞している。今回の成果と合わせて、こうした装置や技術も他の分野、機器に応用され、合理化に大きく貢献すると期待される。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)

肩書は取材時のものです。

インパルス電圧発生装置

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