コスト削減の取り組み 現場レポート No.11

三班体制のコンセントレーター取付工事を一元化

職域を越えて挑んだ、机上と柱上との連携プロジェクト

職域を越えて挑んだ、机上と柱上との連携プロジェクトのイメージ写真

「多能工化」の推進により通信ケーブル工事を効率化

東京電力パワーグリッド株式会社(以下「東京電力PG」)が敷設する電線は、発電所でつくった電気をオフィスや家庭に届けるための送電線や配電線だけではありません。発電所や変電所の情報を管理したり、事業所間でのデータの送受信を行うための通信ケーブルの敷設も、電力会社にとって欠かせないインフラのひとつです。
レポートNO,9で取り上げたスマートメーターの情報もこの通信ケーブルを経由してデータセンターに送られますが、この仕組みの一部を担っているのがコンセントレーターと呼ばれるデータ収集装置です。約9万台のコンセントレーターを電柱(配電コンクリート柱)に設置する工事を抜本的に見直し、作業員の「多能工化」を推進することで、およそ60%の作業時間削減を実現しました。

通信ケーブル工事の多能工化による作業時間削減効果

地上7メートルにある職域の壁

まちで見かける電柱の長さは11~16メートル。1本の電柱には、実は2つの“職域”が存在する。
「いままで越えることのできなかった職域を、初めて越えて取り組んだのが今回のプロジェクトでした」
こう振り返るのは、東京電力PG・電子通信部・通信技術ネットワーク技術センターの佐藤健。プロジェクトを一任された通信ケーブル技術グループマネージャーである。
6600ボルトの高圧線や、100/200ボルトに変圧された低圧線を扱う部門は「配電」。対して、光ファイバーなどの通信ケーブルを扱う部門は「通信」と呼ばれている。電力を供給する会社にとって、配電線は“血管”、通信線は“神経”にたとえられるが、同じ電柱で行われる工事であっても、「配電」と「通信」は異なる職域とされてきた。その職域を超えてコンセントレーター取付工事の大幅な効率化を担当することになった中心メンバーが、通信ケーブル技術グループの7人だった。
スマートメーターとコンセントレーターの関係は、携帯電話の端末と基地局の関係に近い。スマートメーターは2020年度までに東電のサービスエリア全域で約2700万台の設置が進められている。各戸に取り付けられたスマートメーターから無線で発信されるデータのほとんどは、電柱に設置したコンセントレーターで収集され、光ケーブルや携帯電話の回線を通じてデータセンターに送られる仕組みである。
スマートメーターの導入と並行して、コンセントレーターの柱上設置工事はプロジェクト発足前からすでに実施されており、そのうち光ケーブルで回線を構成する工事は、以下のような3班体制で行われていた。

【接続工事】:光ケーブルに分岐接続用の箱(クロージャー)を取付け、光コードの芯線を接続。
【電源工事】:低圧線からコンセントレーター用の電源ケーブルを引き込む。
【取付・試験】:コンセントレーターを取付け、光コードと電源ケーブルを接続し、試験調整。

プロジェクトを一任された佐藤健(電子通信部・通信技術ネットワーク技術センター通信ケーブル技術グループマネージャー)

CR工事の標準フロー

「以前の常識では、3班で行う工法が最善であると、われわれも工事会社さんも思っていました」
と、佐藤がいう「常識」は、安全を最優先することで専門化された“職域”を意味していた。光ケーブルを扱う「通信」の【接続工事】【取付・試験】と、低圧線を扱う「配電」の【電源工事】とが分業になっていたのは、感電事故の防止が最大の理由である。地上約7メートル地点で行う通信工事の作業員にとって、さらに数メートル上で行われる配電工事は、未知の領域だった。
コンセントレーター取付工事の効率は〈人・分〉という単位で表される。作業者10人で50分かけて完了した場合は〈500人・分〉。作業者5人で100分かかった場合も〈500人・分〉となる。当初の3班体制の工事は、【接続工事】が〈3人×76分〉、【電源工事】が〈3人×44分〉、【取付・試験】が〈4人×52分〉で、総時間が〈約567人・分〉となっていた(※いずれも地上に配備する交通誘導員や災害防止責任者を含む)。
その「最善」と考えられていた工法に対して、本社の「生産性倍増プロジェクト」を指導する内川晋特任顧問から作業効率化のミッションが下ったのは、2015年7月7日のことだった。

30%超の削減案に突きつけられた「NO」

内川顧問のカイゼン指導を受けて、通信ケーブル技術グループは3班体制の工法を個別に再検討した。まず、【接続工事】に関して見直したのは、誤接続防止のためのダブルチェックの必要性。柱上の接続工事を2人の作業員で行うのは、ヒューマンエラーを2人の目によるチェックで回避するためである。しかし、光ケーブルの接続作業自体は1人でも可能だった。
「どんな工事も必ずダブルチェックをするという発想を捨て去り、もう一度ゼロから検討し直しました。その結果、コンセントレーターの接続工事に用いる柱上の光接続箱(クロージャー)は小型で扱い易く、正しい手順で行えば1人作業でも誤切断・誤接続リスクを低減できると判断しました」(佐藤)
4人で行っていた【取付・試験】も、地上に配備する災害防止責任者の役割を柱上の2人の作業員のいずれかが兼務することで、3人に減員することが検討された。
もっとも頭を悩ませたのは、通信ケーブル技術グループにとって職域が異なる「配電」の【電源工事】である。光ケーブルが施設されている7メートルよりも数メートル上にある低圧線の引き込み工事を、「通信」の作業員がもし「多能工」となって担当できれば、作業効率は飛躍的に向上させることができる。なぜなら、【接続工事】【電源工事】【取付・試験】を個別に実施する場合、コンセントレーター取付工事が完了するまでの間、現場での「準備」と「撤収」を3回繰り返すことになるが、「配電」の作業員の力を借りることなく、「通信」の作業員だけで工事を一元実施できれば、これを1回に短縮できるからだった。
さらに、【接続工事】【電源工事】で接続した光コードと電源ケーブルは、次の【取付・試験】のために柱上に仮の「巻きだめ」をしておかなければならない。一元実施では、この「巻きだめ」工程も不要になる。
改善策の検討では様々な可能性を想定し、通信ケーブル技術グループは3パターンの作業フローを組み立てた。その中で、柱上の全作業を2名の通信工が一元実施する作業フローであれば、机上の計算で総時間〈383人・分〉、すなわち32%の作業時間削減が期待できた。

配信・通信を多能工化し、一元実施するフロー

「30%を超える削減率であれば、普段の感覚なら『よくやった』と思えるのですが……」
グループマネージャーの佐藤は苦笑する。内川顧問への報告に先立ち、32%の作業時間削減案を佐藤が提出すると、上司である電子通信部長は予想を超える目標値を提示したのである
「半減せよ。50%以上削減できなければ、生産性が倍増したことにはならない」

机上では気づかない現場の知見

課題は机上だけで解決するものではない。プロジェクトが組み立てた作業フローは、東京電力PGの配電部や工事会社の協力を得て、実作業での検証が行われた。とはいえ、工事会社の作業員も最初は戸惑いながらの参加だった。
「配電工事の分野の経験がないのは、われわれだけでなく工事会社の通信工さんももちろん一緒です。現場で低圧線の接続作業をしたことのない職人さんには違和感もあったようです。それは技術・技能面での問題もありますが、心理的な障壁のほうが大きかったと思います」(佐藤)
前述したように、それまでの工法を「最善」だと認識し、なおかつプライドを持ってコンセントレーター取付工事を手掛けていた作業員の中には、地上7メートルよりも上での作業に抵抗感を示す者もいた。その気持ちを、「わかるよね? あなただったら」といった言葉で何度も作業員から聞かされたのは、プロジェクトメンバーの砂見正行だった。
「私には過去に工事会社に派遣されて、実際に第一線の現場でケーブル敷設の作業に携わった経験があるんです。だから作業員さんたちも私にはものが言いやすかったのではないかと思いますし、今回のプロジェクトでは机上の検討と現場の感覚との溝を埋めていくのが私にできる役割だったとも感じています」(砂見)
工事に関する新たなルールは、工事会社が培ってきたノウハウと個々の作業員の技能とが100%発揮された中で運用されなければならないと砂見は話す。そのために作業員たちの気持ちを汲み取り、プロジェクトの意義を理解してもらうことに砂見は尽力した。
「多能工化は、技術力をアップして職域を広げるチャンスでもあります。このチャレンジが未来につながるんだということを、作業員さんたちと何度もディスカッションしながら理解していただきました」(砂見)
未知の領域へのチャレンジだけに、工事会社も検証にはベテランの人材を送り込んでいた。技術も経験も豊富な作業員が、ひとたびチャレンジにやり甲斐を見出せば、机上では到達できない発想をもたらしてくれることもある。その一例が、この意見だった。
「取付を最初にやったらどうか?」
コンセントレーターの【取付・試験】は、工事の最終段階で行うことになっていた。机上の議論では、【取付】と【試験】を切り離すことなど、誰も考えつかなかった。しかし、この着眼が作業時間削減の切り札的な効果を生み出すことになる。
柱上の状況は現場によって千差万別である。コンセントレーターに接続される光コードと電源ケーブルの長さは、コンセントレーターの位置が決まらなければ確定できない。そのため、光接続箱(クロージャー)から伸びる光コードと、低圧線から引き込んだ電源ケーブルは、コンセントレーターの【取付】後に長さを調整する作業が必要だった。
ところが、最初にコンセントレーターの【取付】が完了すれば、同時にクロージャーまでの距離と低圧線までの距離が確定する。これは、接続に必要な光コードと電源ケーブルの長さが自動的に決まることを意味する。現場の状況によっては余ったケーブルの「巻きだめ」処理も必要だった2本の電線の長さの調整作業が、【取付】を最初に行うことで作業フローから消えたのである。
机上の議論では見えなかった「手待ち(どちらか一方が他方の作業終了を待っている状態)」があることも、検証で明らかになった。真夏の柱上で作業員たちが大粒の汗とともにもたらしてくれた数々の意見やデータを反映し、通信ケーブル技術グループのメンバーたちは作業フローのブラッシュアップに取りかかる。工程の組み替えを繰り返し、最終的にできあがった作業フローは机上の計算で〈383人・分〉から〈330人・分〉へと効率化された。

机上で更なる効率化を検討、改善後のフロー

しかし、削減率はまだ42%。「半減」という目標には届いていない。8月24日と9月2日には、効果を測定する現場での実作業検証が予定されていた。机上での作業はやり尽くした。これ以上、何をすれば削減率をさらに高めることができるのか?
答えは、現場にあった――。

プロジェクトの意義を作業員に伝えることに尽力した砂見正行(電子通信部・通信技術ネットワーク技術センター通信ケーブル技術グループ)

多能工化を体現した職人魂

「半減という目標を果たして達成できるのか? つらいと思ったことはありませんでしたが、プロジェクトの業務に追われている夢を何回も見ました(笑)」
と話すのは、通信ケーブル技術グループ・チームリーダーの海老澤勝。検証作業を依頼する工事会社との調整や、手順・工法書の作成に奔走しながら、どうすれば通信工が「配電」の職域で安全に作業ができるかを海老澤は模索していた。新たな制度設計を進めるための検証で、工事会社の作業員たちは電源ケーブルの硬い外皮をナイフで剥く作業にも最初は四苦八苦だった。それは、多能工化が決して生やさしいものではないことの証といえた。
だが、「上手くできない」という要素が、ときとして現場を変える大きな原動力になることもある。難しい取り組みであるがゆえに、協力する工事会社も屈指の技術者たちを起用して実作業検証に臨んでいた。グループマネージャーの佐藤は、作業員たちの底力に期待を寄せていた。
「通信の作業員さんには物静かでジェントルな人が多いのですが、『他の奴には負けたくない』という職人魂をみんな持っているんですよ。このプロジェクトの意義がしっかり伝わっていれば、彼らも『上手くできない』状況をなんとか打開しようと頑張ってくれるに違いないと思っていました」(佐藤)
期待した職人魂は、2度の実作業検証で見事に発揮された。作業時間を計測し、手順や手際を詳細にチェックされる実作業検証は、「他の奴には負けたくない」作業員たちにとってはある種の競争であり、技術に自信を持つ者には腕の見せどころでもあった。
机上で〈330人・分〉と計算された作業フローを、工事会社のエース級の作業員たちは〈231人・分〉にまで縮めて見せた。削減率は、なんと60%。「半減」という目標を大幅に超える成果だった。
「最初から半減という高い目標を設定されたことで、生半可な努力では届かないと腹がくくれて、職域を飛び越えることもできたし、新しい知恵も出てきたような気がします」(佐藤)
作業時間半減という高い目標はクリアされた。しかし、プロジェクトの真価が問われるのは、ここから先だった。
コンセントレーターは旧来の工法で2015年度末に4万台以上の設置が完了したが、残る約5万台の取付工事は一部低圧線の施設方式を除き、60%の削減率を達成した新しい工法で行われる。そのすべてに工事会社のエース級の作業員が登用されるわけではない。
プロジェクトは、新たな課題と向き合うことになる。それは、新しい作業フローを、1人でも多くの現場作業員が無理なく遂行できるような仕組みを構築することだった。

海老澤勝(電子通信部・通信技術ネットワーク技術センター通信ケーブル技術グループチームリーダー)

手順・工法書がていねいにまとめられた、分厚いファイル)

「実現」から「本格展開」へ

早急に取り組むべきは、工事会社の通信工に電源工事を体験してもらう機会をつくることだった。東京電力PGの配電部等関係セクションに協力を仰ぎ、工事説明会や実作業実習会が企画される。その研修資料の作成業務を「夢にまで見た」海老澤の記憶には、印象深い光景が焼き付いている。実習会で行われた電源ケーブルの皮剥きを、グループマネージャーの佐藤が作業員たちに混じって練習していたのだ。
佐藤が述懐する。
「私が一緒になって皮剥きをしていれば、『東電の机上職に負けるわけにはいかんだろう!』と、彼らもプライドをくすぐられると思ったんです。実際にやってみたら、とても職人さんたちにはかないませんでしたけどね(笑)」
プロジェクトリーダー自らの皮剥き練習に、どれだけの効果があったのかはわからない。しかし、実習会や研修に参加する作業員たちのやる気を後押しする一助になったことは間違いなかった。
そして、新しい作業フローの早期展開に向けた大きなポイントとなったのが、『コンセントレーター用低圧引込線工事資格認定制度』を導入できたことだったと海老澤は話す。
「コンセントレーター取付工事で行う電源工事は比較的簡易な作業なので、必要な技能を短期間で学んでもらうために、この工事に特化した認定制度をつくったんです。この資格を取得した工事会社の作業員さんたちが、今度は指導者として自社の作業員の多能工化に力を注いでくれることを期待しています」
こう話す海老澤の顔には、満面の笑みが浮かぶ。喜びの表情には理由があった。インタビュー取材直前の3日間でコンセントレーター用低圧引込線工事資格認定制度の第1回目の試験が行われ、前日に初めての合格者が出たばかりだった。元請会社4社からそれぞれ3名、計12名が受験し、11名が合格(※1名は2回目の認定で合格)。海老澤は、「卒業式を終えた気分です」と言い終えた後、すぐにこう続けた。
「これからがいよいよ新学期のスタートですね」
東京電力PGには45の支社エリアがあり、それぞれに工事会社が入っている。各エリアで2名の資格者が確保できるように5月までに認定試験を順次開催し、新しい作業フローによるコンセントレーター取付工事を本格展開させなければと海老澤はいう。
ところで――。プロジェクトのために新たに導入された資格認定制度は、残る約5万台のコンセントレーターの設置が完了したら無用になるのではないか? こんな意地の悪い質問を、最後にプロジェクトリーダーの佐藤にぶつけてみた。
「通信機器は何年後かに必ずリプレイス(交換)の時期を迎えますので、その時にはやはりこの電源工事のスキルが必要です。さらに言えば、これから他の工事についてもカイゼンを進めなければならないわけですが、工事会社さんにとっても得になる効率化でなくてはモチベーションは上がらないと考えていました。そこで今年度は、工事会社さんとアライアンスを組んで、コスト削減で生じた利益を分け合えるような発注方式にしており、その取り組みを始めたところなんです」(佐藤)
プロジェクトが発足した2015年7月7日の報告書にある『取り組みのテーマ』の項目には、「元請会社と“WIN-WIN”の関係となるよう――」と明記されている。東京電力PGだけでなく、元請会社にとってもメリットのあるカイゼンの取り組みとしてこそ、未来へとつながる“WIN-WIN”の関係が築かれるといえよう。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)※肩書は取材時のものです。

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