コスト削減の取り組み 現場レポート No.12

協力会社との合同体制の構築

マンパワーを結集し、現場作業の徹底効率化を図る。

マンパワーを結集し、現場作業の徹底効率化を図るのイメージ写真

定期点検による発電設備の停止期間を大幅に短縮

火力発電の燃料として、もっともコストを抑えられるのが石炭です。石炭火力発電所は「24時間最大出力で稼働し続ける」ことで、電気を効率よく安定的に供給しています。しかし、2年に一度の定検(定期点検)が法令で定められており、点検期間中は発電ユニットを2ヶ月以上も停止しなければなりませんでした。
茨城県にある常陸那珂火力発電所1,2号機の出力は、ともに100万キロワット。発電効率は世界最高水準となる45.2%(低位発熱量基準)を実現しています。
定検日数を短縮できれば、石炭火力発電所の稼働率が上がり、コスト削減につながります。2015年5月から着手した2号機における定検短縮の取り組みでは、62日間の計画を48.5日にまで短縮し、約20億円のコスト削減を達成しました。

協力会社との合同体制の構築+内川顧問のカイゼン指導によるコスト削減効果のイメージ

電力自由化の時代を勝ち抜くには

東電のユニフォームを脱ぐ――それは前代未聞の試みだった。そして、その試みが“最善”であると早期に見極めたからこそ、高いハードルはクリアできたといっていい。
東京電力が社を挙げて取り組む「生産性倍増プロジェクト」は、トヨタ自動車・元常務の内川晋氏を特任顧問に招聘し、2015年1月にスタートした。その先行事例の一つとなる常陸那珂火力発電所2号機の定検短縮の取り組みを担ったのは、社内カンパニーであるFPC(フュエル&パワー・カンパニー:現在の東京電力フュエル&パワー株式会社)の機械メンテナンスグループのエンジニアたち。メンバーを指揮したグループマネージャーの脇阪俊宏は、こう振り返る。
「電力小売全面自由化に向けて、われわれもより競争力を高めていかなければならないという強い危機感がありました」
2016年4月1日をもってFPCは分社化し、独立した発電事業会社に生まれ変わった。小売事業者に選ばれるべく他社との競争を勝ち抜くには、安い電気をつくる技術力が不可欠になる。定検を短縮できるノウハウの構築は、FPCのエンジニアにとって至上命題でもあった。
とはいえ、その実現には現場の最前線で点検作業を請け負う関連子会社や作業員との連携が求められる。決められた作業を安全かつ正確に実行するだけではなく、自らの意志で作業の効率化を図ろうとする意識を、いかにして関連子会社の技術者たちと共有するか? そのための前例なき試みが、〈発注者(管理)-請負者(作業)〉という上下関係の垣根を取り払うことだった。
定検が始まるほぼ1ヶ月前の2015年4月。FPCのエンジニア12名は、関連子会社の事務所に常駐し、彼らと同じユニフォーム姿で業務に当たることになった。期間は4ヶ月。現場の隅々まで意識改革を浸透させるために、脇阪をリーダーとするプロジェクトメンバーたちは東電のユニフォームを脱ぎ、関連子会社に入り込んで定検短縮に取り組んだのである。
「事務所の席は,東電社員が隣に並んだりしないようにバラバラに配置して、われわれも先方から現場の苦労を学ぶことを心掛けました。初めての経験でプレッシャーはありましたが、優秀なメンバーがそろっていたので、今回の定検は必ず目標を達成できると信じていました」(脇阪)

常陸那珂火力発電所

定検の現場を指揮した脇阪俊宏(常陸那珂火力発電所機械メンテナンスグループマネージャー)

引き上げられたハードル

カイゼンの手法には「外段取り」「同時併行作業」「作業原単位の磨き込み」という3本柱がある。じつは、同様の発想が機械メンテナンスグループの内部でも以前から培われていた。
「外段取りと同じ工程をわれわれは先行工事と呼んでいましたし、異なる作業の同時併行も日常的に実施していたんです」(脇阪)
2014年に行った1号機の定検及び改造工事は、144日という計画を109日で完了した実績がある。今回の2号機の定検は当初は79日と見込まれていたが、2014年度の計画で62日に見直され、その後も脇阪たちは“限界”を目指して検討を重ね、定検開始直前には53日にまで短縮する目標を立てていた。
ところが、定検開始から5日後、そのハードルはさらに引き上げられる。
「現場を見ろ、もっと短縮できる」「現場を見ろ、もっと短縮できる」
カイゼンの指導に当たる、トヨタ自動車元常務の 内川晋特任顧問の一言だった。「カイゼンは現場にある」という思想を、どうすれば具現化できるのか。高いハードルを超えるための最善策として結果的に大きく奏功することになったのが、メンテナンスグループが関連子会社の社員となって現場の最前線に入り込むという試みだった。

現場の意識改革が生むコロンブスの卵

「これからは石炭だと、以前の勤務地にいた頃からいろいろな人に言われていましたが、実際にここに来るまではピンとこなかったです」
と、苦笑するのは、常陸那珂火力発電所に赴任して10ヶ月で定検に携わることになった高木直幸だ。それまで20年間勤務していた前発電所は、主にLNG(液化天然ガス)を燃料にしている。石油やLNGに比べると、石炭の可採年数は圧倒的に長い。将来に渡って安定的に供給できるという意味において、石炭は有望なエネルギー資源なのである。
4月に関連子会社に出向してから高木が粉骨砕身したのは、現場の作業員たちとのコミュニケーションを深めることだった。が、すぐに“壁”を痛感した。突き当たったのは現場に根付く常識。たとえば4日でやっていた作業を工程調整し、3日でできるようにする。1日の短縮は発電所にとってコスト削減に繋がるが、現場の作業員たちの価値観は他のところにあった。
「仕事の質が低下する」
「4日目の作業員があまってしまうじゃないか」
そんな現場の常識を変えるには、どうしたらいいのか。近道はない、と高木は思った。作業員の一人ひとりと地道に対話を繰り返し、定検短縮の意義を説明する。工期が長くなるほど仕事の質が向上するわけではない。仕事の質は、作業員の意識と作業工程の作り込みとで決まる。工期を1日短縮できれば、その1日を他の仕事に当てることができる。いままでよりも作業効率がアップすることは、関連子会社にとっても技術力の向上であり、競争力を高めることにもつながる。時間をかけて、高木はひたすら理解してもらうことに努めた。
「無口だった年配の職人さんが少しずつ話しかけてくれるようになってきて、そのうちに手順の無駄を自ら見つけてくれるようになったりしました。『こういう動線があれば作業がもっと早くできる』といった意見が出てきて、それが歩廊架台の設置(1.5日短縮)や、資材の仮置きスペースの拡大(2日短縮)にもつながったんです」(高木)
建設業の経験豊富な作業員たちは、現場での人やモノの動きを熟知している。足場を新たに一箇所つくるだけで、人や物資の移動時間が大幅に短縮する。そんな、コロンブスの卵のようなアイデアが、一つ、また一つと、作業現場から芽を出したと高木は話す。
メンテナンスグループには考えつかない工夫が、建設業のプロである関連子会社の技術者にはできる。一方、古い設備や部品を適切に補修して維持する延命化技術は、メンテナンスグループが建設業のプロたちに伝えることでコスト削減の手法にできる。双方の専門性が定検短縮の両輪となって機能したことは、現場の意識改革の成果といっていいだろう。高木は、自身が取り組んだ業務のやり甲斐を、こんな言葉で表した。
「2号機の定検で、私自身いろいろなことを学び、石炭火力の将来性を実感しています。以前の勤務先の同僚たちに会うと、いまでは私のほうが大きな声で言っちゃいますね、これからは石炭だって(笑)」

エネルギー資源の可採年数の比較(2013年末) 出典(BP統計2014年版)

現場の意識改革に取り組んだ高木直幸(常陸那珂火力発電所機械メンテナンスグループ)

誘引通風機点検時の動線を確保する歩廊架台(工事中)

ボルト1本への配慮

2号機の定検作業がスタートしたのは5月3日。ゴールデンウィークの真っ只中だった。翌4日の早朝、樫村浩はいきなり不具合に遭遇する。ボイラーに直結したIDF(Induced Draft fan:誘引通風機)のカップリングボルトとクッション材として挟まっているエレメントに固着が生じ、上手く外せない。無理にボルトを回すと、エレメントがよじれて使えなくなってしまう。
「その部分を壊して取り替えれば済む話でした。ところが、ゴールデンウィークの間は全国的に業者がお休みで、部品の納期が確認できなかったんです」(樫村)
不具合箇所を壊してしまえば、新しい部品が納入されるまで作業はストップする。仮に、長納期になる場合を想定すると、即座に壊すことはできない。定検短縮は、複数の作業を効率よく組み合わせた工程の作り込みで成し遂げられる、まるで大小の小石を積み上げたタワーのようなものだ。たった一つの小石が外れてタワーが崩れるように、たった1本のボルトの不具合で短縮工程が瓦解する。やるべきことは、他の点検作業への影響を最小限に抑えること。樫村は、浸透液を塗布しながら根気よくボルトを回して外す作業方法を選択、24時間ぶっ通しで続けた。この教訓は次回以降の定検に生かされ、カップリングボルトには防錆剤が塗布されることとなった。
「入社して二十数年の間に何回も定検はやりましたけれども、これだけさまざまなチャレンジをしたのは初めてでしたね」
と話す樫村の口からは、次から次へと工程短縮の事例が出てくる。IDF2台にそれぞれ専用のクレーンを配備、ファン特殊工具の分解台数分保有、炉内足場組立と火炉水冷壁切断の併行作業、火炉中間全面足場装置試運転と炉内足場解体準備の併行作業…etc。これらは、いずれも現場で作業する技術者たちとの連携があればこそのチャレンジであるが、他方で、現場から離れたオペレーション業務との協力体制があったことも見逃せない。
たとえば、ファンテストとユニット起動の同時進行。従来は、ファンの振動測定→ファンの停止→発電ユニットの起動準備→バーナー点火という手順で行われていた工程を見直し、振動測定をやりながら起動準備を進め、ファンテスト終了と同時にファンを停止することなくバーナーに点火する工程に改められた。現在の発電システムはコンピュータ制御され、定検現場から離れた事務本館4階の中央操作室で集中コントロールされている。組み替えた工程を安全かつ速やかに実行するには、定検現場と中央操作室との連携も重要になってくるのである。
「中央操作室の運転員も、現場にいるわれわれが“待ち”をつくらないように対応してくれますし、いろいろな提案もしてくれます。カイゼンには、現場も中央操作室も一丸となって取り組んだという実感がありましたね」(樫村)

ピンチを次回定検の糧とした樫村浩(常陸那珂火力発電所設備グループチームリーダー)

樫村がカイゼンした誘引通風機のカップリングボルト

自動化されたシステムへの手動介入

稼働中のボイラーの炉内温度は約1,500℃にも達する。バーナーの火を止めても、炉内温度は300℃を超えている。作業員が内部に入って点検作業に取りかかるためには、60℃以下に冷めるまで待たなければならない。冷ますために炉内には空気が送り込まれる。しかし、急速に冷やせばボイラーの金属部分が損傷する恐れがある。機器損傷を起こさずに早く冷やすための空気流量の調整は、数千枚に及ぶシーケンス(電気展開接続図)を元にプログラムされ、自動化が図られている。
通常、60℃に冷やすまでに9時間近くかかる。それが自動化された最短の冷却時間。だが、「機器を損傷させることなく、冷却時間はもっと短縮できる」と、運転員の馬籠達也は考えていた。
「自動化のプログラムは、いろいろな条件を考慮してつくられていますから、ある程度の安全裕度があるんです。安全を適切に評価すれば、チャレンジできると思いました」
と、馬籠がいう安全裕度は,例えばボイラーの強制冷却プログラムでいえば、機器損傷のリスクがない空気流量は気温や湿度といった環境諸条件にも左右されるが、想定される条件の変動を考慮した上で、温度変化に一定の安全率を上乗せした範囲で空気流量がプログラミングされているということだ。従って、「安全」ではあるが、必ずしもその時々の諸条件に対応した「最適」ではなかった。
馬籠は、自らの経験則からこう感じていた。
「手動介入すれば、自動化の精度をもっと高められるのではないか?」
入社して最初に勤務したのは大井火力発電所。1970年代前半につくられた大井発電所では、手動操作が当たり前だった。1,000以上も並んだレバーを手で操る技術は、手間はかかるが臨機応変に微調整ができるメリットがある。そもそも自動化のプログラムは、人の手で操作するノウハウをシーケンスに落とし込み、そのデータから導き出されたものだ。馬籠のチャレンジは、自動化の“原点”に切り込むものだった。
しかし、待ち受けていたのは予想以上の難題。手動介入したことで自動化のプログラムが途中で止まり、冷却までの時間が逆に長くなったケースも過去には報告されていた。経験だけを頼りにするわけにはいかない。馬籠は膨大なシーケンスを丹念に検証し、どういう状況で、どんな操作をすれば、プログラムを止めずに手動介入ができるのかを調べ上げた。そして、強制冷却中はリアルタイムで温度降下率を見ながら、介入すべきタイミングで手動の操作を取り入れた。
課題は他にもあった。自動化によって、中央操作室の運転員は5名×4班という少人数体制だ。手動介入の操作は、極力1人でできるような体制にしなければならなかった。
「できることを一つ一つ見つけていって、約1.5時間の短縮が実現できました。さらに取り組みを続けた結果、現在では3時間の短縮が可能になりました。メンテナンスグループの人たちが必死で早く作業を仕上げてくれているのに、中央操作室が自動化にばかり任せているわけにはいきませんからね。それに、手動介入を通して若手が自動化の背景となる技術を勉強できたことも、結果的にうれしい収穫でした」(馬籠)
どれだけコンピュータの性能が向上しても、人間の力がいらなくなることはない。手動のメリットはまだまだオペレーションに活用できると馬籠はいう。次回の定検では、起動工程の短縮にも手動操作の技術が取り入れられようとしている。

ボイラー冷却時間の短縮に挑んだ馬籠達也(常陸那珂火力発電所当直主任)

常陸那珂火力発電所 中央操作室

世界を視野にチャレンジは続く

常陸那珂火力発電所2号機の定検は48.5日で完了した。100万キロワットの発電所が50日を切る短期間で定検を終えたのは、国内では初の事例となろう。プロジェクトメンバーを統率した脇阪は、当初“限界”とも思われた53日という目標をさらに短縮できた要因をこう述べる。
「現場の意識改革がしっかりできたことと、みんなで目標を共有できたことでしょうね。今回の成果と経験は、他の発電所のメンテナンス作業にも間違いなく水平展開できます。広野火力発電所の次回定検を見据え、すでにわれわれは現地へ行って現場の技術者たちと意見交換をしているんです」
2016年度中には、常陸那珂火力発電所の1号機で定検が実施される。予定されている工事量も多く、2015年の2号機の定検よりも作業量は多くなると見込まれるが、その苦労を「いまから楽しみにしていますよ」と、脇阪はいう。
騒音や振動を抑え、周辺環境との調和を図り、排出ガスに含まれる大気汚染物質を99%以上除去できる処理性能を有し、その上で45.2%という発電効率で電気をつくり出す石炭火力発電所を維持管理することは、世界に誇れる技術である。原料の安さから、世界中の電力をもっとも多く生み出しているのが石炭火力だが、中国やインドなどの国々では発電効率が30%程度で、排出ガスが十分に処理しきれない石炭火力発電所も数多く稼働している。東京電力の将来的な海外事業展開を考えると、常陸那珂火力発電所で実証された電気の安定供給に関わるノウハウは、世界のエネルギー問題や環境保全にも大きく貢献することが期待されている。

(取材•執筆:経営合理化現場取材チーム)※肩書は取材時のものです。

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