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渡り鳥は世界の自然をつなぐ〜尾瀬に飛来する鳥たちが教えてくれる自然の摂理〜
今回のゲストは、長年にわたり、国内外で鳥類の研究・調査を続けてこられた東京大学の樋口広芳さん。尾瀬にやってくる渡り鳥たちの生態や、彼らを取り巻く環境についてのお話は、知らないことばかりで、まさに「目から鱗」。「エコ対談」というより「エコ授業」となった今回のお話で、今まで気づかなかった尾瀬の別の一面が見えるようになりました!

1948年、神奈川県出身。

宇都宮大学農学部在籍時から本格的に野生の鳥の生態研究を開始する。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。現在は同大生物多様性科学研究室教授として鳥類学、生態学、保全生物学の研究と教育に従事する。『鳥たちの生態学』『飛べない鳥の謎』『鳥たちの旅ー渡り鳥の衛星追跡ー』など著書多数。

<東京大学農学部生物多様性科学研究室教授>樋口広芳 Hiroyoshi Higuchi × <東京電力・尾瀬保護活動担当>竹内純子 Sumiko Takeuchi 東京都出身。1999年、東京電力の社内人材公募制度に応募して尾瀬の自然保護担当となる。「みんなの尾瀬をみんなでまもる」を提唱し、各種ボランティア活動や絵本の執筆、学校を訪問しての「出前授業」などを展開する。
尾瀬は野鳥のパラダイス
竹内 「尾瀬は自然が豊かだから、鳥もたくさんいるんでしょうね」と聞かれることが多いのですが、私は尾瀬ばかり歩いているので、他との比較ができないんです。尾瀬には多くの鳥がいるといえるのでしょうか?
樋口 もちろん! 鳥は種類によって異なる環境に棲みますから、山あり湿原あり、落葉広葉樹林あり亜高山帯の森林ありという尾瀬は、多様な鳥と出会える稀有な場所です。個体数も多いですし、ゆっくり自然に親しもうという気持ちをもてば、充分に鳥の世界を楽しむことができますよ。
竹内 「ゆっくり」というのが重要なんですね。
樋口 最近は駆け足で見て帰っちゃう人が多いみたいですが、やはり尾瀬はゆっくり自然を楽しみながら歩くところだと思うんですよね。
竹内 急いでいると気がつかないような小さな花も多いですし、尾瀬は「ゆっくり」がキーワードですね。
竹内さんが子供の頃よく遊んでいたという東京大学構内の三四郎池で。
渡り鳥にもっと感謝を
「森の環境が安定していれば、鳥たちは毎年同じ森に帰ってきます」
竹内 尾瀬にはどんな種類の渡り鳥がいるんですか。
樋口 春に南から渡ってくる夏鳥は、カッコウやホトトギス、ツツドリ、オオジシギ、キビタキ、オオルリ、センダイムシクイ、メボソムシクイ、エゾムシクイなど。小さくていい声で鳴く鳥がやって来ます。秋に北から来る冬鳥は、ツグミとかマミチャジナイとか。植物や昆虫はずっとその場所にいますが、鳥は春と秋で「メンバー」が入れ替わるのが大きな特徴です。
竹内 小さな鳥が渡ってきているという感覚がどうもなくて。いつもなんとなくそこにいるものだと思っちゃうんですよね。
樋口 竹内さんのように年に何度も尾瀬に行っている方でもそうなんですね(笑)。尾瀬の生き物の世界は尾瀬だけで成り立っているのではなく、渡り鳥がやってくるシベリアや東南アジアの自然環境とも結びついているわけです。だから尾瀬で生態系を保全し、鳥を保護しても、シベリアや東南アジアの自然が壊されてしまうと、尾瀬に来る鳥も少なくなってしまうんですね。鳥を守るためには、国際協力が不可欠だということを実感します。
竹内 いちばん難しい自然保護かもしれませんね!
樋口 鳥は遠く離れた地域の自然、生態系、人をつなぐ役割を果たしていて、行き来するどちらのエリアにとっても大切なものなんです。
竹内 小さな体で世界をつなぐなんて、すごいなぁ。
樋口 何千キロという距離を飛んでくる。しかも、特に森の鳥の場合、同じ鳥が尾瀬の同じ林の同じ場所に帰ってきているんですよ。人間の世界でいうと、驚くべきことに何丁目何番地何号という精度なんです。そうやって行き来する鳥たちが、尾瀬の自然の生態系を豊かにしてくれている。尾瀬の自然を大切に思う人たちは、そのことをもっと感謝しなきゃいけないと思います。
竹内 生命に対する畏敬の念がわいてきますね。さっきから「すごいなぁ」しか言えなくなっています(笑)。
鳥を通して尾瀬を見ると…
竹内 尾瀬は、平成17年にラムサール条約に登録されました。以前から法的にもしっかり保護されていたこともあって、登録による具体的変化は特にはなかったのですが、こうした条約の意義をどうお考えになりますか。
樋口 ラムサール条約は水鳥を中心に考えていますが、自然はつながっていて、その保護には国際協力が不可欠だと認識するよいきっかけだと思います。尾瀬は、渡り鳥たちの重要な越冬地や渡りの中継地でもありますから、乾燥化したり荒廃してしまうと、渡り鳥にとっても大変大きな問題です。
竹内 尾瀬も温暖化の影響で乾燥化しているのでは、とご心配いただくことも多いんですよ。ただ、周囲の山から土砂が流入して湿原が草原になっていくのも自然の流れとしてありえますし、どこまでが自然の変化で、どこからが人間社会の影響かは判断が難しい。たしかに雪の減少など気になる変化はあるのですが……。
樋口 鳥は人間よりも敏感に環境の変化を感じとります。たとえばヒバリやムクドリは湿地より乾燥した場所を好む鳥で、昔はいなかったのに、乾燥化が進むなかで尾瀬でも見られるようになっているんじゃないかと思います。
竹内 環境の変化を伝えてくれているんですね。鳥からのメッセージをこちらも敏感に感知しなければいけませんね。
ところで最近は鳥インフルエンザなどの問題で、鳥が悪役のようにいわれることもありますよね。先生にとっては残念な状況ではないですか?
樋口 鳥インフルエンザに関しては誤解されている部分が多く、複雑な思いがあります。野生の鳥が伝播にどう関わっているかは、実はまだよくわかっていないんです。
竹内 世界の自然をつなぐ大変な役割を果たしてくれているが故に、そうした宿命も背負っているのかもしれませんね。身近な鳥たちが、素晴らしい能力をもっていて、大事な役割を果たしてくれているということが、今日やっとわかりました。
樋口 自然は、漫然と見ているだけでは、ありがたみが感じられません。でも、そこにいる鳥が何千キロも旅してこの場所に来てくれたことを知ると、感激しますよね。自然の仕組みやそこに棲む生き物の暮らしを知ることが、私たちの意識を変え、自然をまもる活動につながる。だから、尾瀬の魅力や自然の楽しみ方を伝えてくれるこうした企画には大賛成です。
竹内 ありがとうございます! 今日はマンツーマンの「世界一贅沢な授業」をありがとうございました(笑)。
尾瀬は、奥日光、三宅島と並んで最も心に焼き付いている場所だという
 
 
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