プレスリリース 2008年

起動操作中の福島第一原子力発電所5号機における高圧注水系および原子炉隔離時冷却系の運転上の制限からの逸脱に関する調査結果(中間報告)ならびに原子炉再起動について

                             平成20年6月4日
                             東京電力株式会社

<概要>
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(事象の発生状況)
 ・平成20年5月25日、起動操作中の5号機において高圧注水系の作動試験の際、
  蒸気らしきものの発生を確認したことから当系統を手動停止いたしました。
  この事象を受けて、原子炉隔離時冷却系の作動試験を実施いたしましたが、
  これも自動停止したことから、原子炉を手動停止いたしました。
■高圧注水系の手動停止について
(調査結果・推定原因)
 ・高圧注水系の駆動用蒸気の量を調整する弁のボルトの締め付け不良により、
  当該弁の上蓋から蒸気がわずかに漏えいしたものと推定いたしました。
(対策)
 ・当該ボルトを締め付ける際は、締め付け力の設定や締め付け工具の使用等に
  ついて的確に実施することとし、要領書にも反映いたします。
■原子炉隔離時冷却系の自動停止について
(調査結果・推定原因)
 ・原子炉隔離時冷却系の駆動用蒸気の量を調整する弁の弁棒の回転を防止する
  ナットの締め付けが不十分であったため、運転時に弁棒が回転し弁の開きが
  大きくなり、蒸気量が増えたことから、タービンの回転数が上昇して自動停
  止に至ったものと推定いたしました。
(対策)
 ・当該ナットを弁に取り付ける際は、十分な締め付けを行い、弁棒が回転しな
  いことを確認することとし、手順書に反映するとともに、弁棒の廻り止め用
  のビスを取り付けることといたします。
(今後の予定)
 ・本日午後6時より、原子炉を起動する予定です。
 ・原子炉の起動後、高圧注水系および原子炉隔離時冷却系の作動試験を行い、
  対策の妥当性を確認し、それらの結果をとりまとめて報告いたします。
(安全性、外部への影響)
 ・本事象による作業員および外部への放射能の影響はありません。
詳細は以下のとおりです。
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1.事象の発生状況
 平成20年5月25日、起動操作中の福島第一原子力発電所5号機において、高圧
注水系*1の作動試験を実施したところ、「高圧注水系タービントリップ」の警
報が発生し、警報とほぼ同時に現場より、蒸気の量を調整する弁付近から蒸気ら
しきものが発生しているとの連絡を受けたため、運転員が高圧注水系の手動停止
操作を行いました。このため、保安規定で定める「運転上の制限*2」から逸脱
していると判断いたしました。
 ただちに「運転上の制限」を満足しない場合に要求される措置である原子炉隔
離時冷却系*3の作動試験を実施したところ、同系統も自動停止したことから
「運転上の制限」から逸脱していると判断し、保安規定の要求*4にもとづき午
前3時40分から原子炉の停止操作を開始し、午前10時49分に原子炉を停止いたし
ました。
 その後、午後1時45分、原子炉の圧力が低下し、保安規定による高圧注水系と
原子炉隔離時冷却系の動作要求がなくなったことから、「運転上の制限」の逸脱
から復帰いたしました。
 なお、本件については、5月27日、国への報告対象事象*5であると判断し、
報告いたしました。
           (平成20年5月25日27日お知らせ済み・公表区分I)

 今回の高圧注水系および原子炉隔離時冷却系の不具合は、別々に発生した事象
であり、それぞれの調査結果、推定原因および対策は以下の通りです。

2.高圧注水系の不具合について
2−1.高圧注水系の作動試験時の蒸気らしきものの発生について
(1)調査結果
  ・高圧注水系を駆動させる蒸気の量を調整する弁(以下、高圧注水系の蒸気
   加減弁)の上蓋のボルト(以下、当該ボルト)を締め付ける力が管理値を
   下回っていたこと。
  ・高圧注水系の蒸気加減弁の蓋のあわせ面において、蒸気の漏えい跡が確認
   されたこと。
  ・当該ボルトの締め付けにあたり、工具の締め付け力の設定値や、締め付け
   力を増幅させる装置(以下、倍力装置)を使用する際の状況について、記
   録を残す手順となっていなかったこと。
(2)推定原因
   作業員が締め付け工具の締め付け力の設定もしくは倍力装置の使用方法を
  誤ったことにより当該ボルトが十分締まっていなかった可能性があり、その
  ため、高圧注水系の作動試験において高圧注水系の蒸気加減弁に流入した蒸
  気が蓋のあわせ面から漏えいしたものと推定いたしました。
(3)対策
   当該ボルトを締め付ける際は、締め付け力の設定を的確に行うとともに、
  倍力装置の使用状況を確実に確認することとし、その旨を要領書に記載する
  ことといたします。なお、締め付け力の設定値や倍力装置の使用状況につい
  ては、今後、記録を残すことといたします。

2−2.高圧注水系の作動試験時の警報発生について
(1)調査結果
  ・高圧注水系の作動試験時の警報は、高圧注水系を駆動させる蒸気の止め弁
   (以下、高圧注水系の蒸気止め弁)が、起動から所定の時間以内に開かな
   かったため発生したこと。
  ・今回の定期検査において、蒸気止め弁の動作速度を調整する*6ために高
   圧注水系の蒸気止め弁を動かす油圧系統のオリフィス*7を小さい径のも
   のに取り替えていたこと。
(2)推定原因
   今回の定期検査において、オリフィスを小さい径のものに取り替えたこと
  から、当該弁を開く装置への油の供給量が減り、必要な油圧に到達するまで
  の時間が、これまでよりも長くかかってしまったものと推定いたしました。
(3)対策
   元の径のオリフィスに戻すことといたします。

3.原子炉隔離時冷却系の不具合について
3−1.原子炉隔離時冷却系の自動停止について
(1)調査結果
  ・原子炉隔離時冷却系は、タービンの回転数が上昇し過ぎたため自動停止に
   至ったこと。
  ・原子炉隔離時冷却系を駆動させる蒸気の量を調整する弁(以下、原子炉隔
   離時冷却系の蒸気加減弁)の弁棒の回転を防止するナットがゆるんでおり、
   弁の開き具合を調整するレバーとナットの隙間が組み立て時よりも拡がっ
   ていたこと。
  ・原子炉隔離時冷却系が自動停止する前に、原子炉隔離時冷却系の蒸気加減
   弁の弁棒が回転していたこと。
  ・レバーとナットの隙間を測定する手順となっていたが、ナットの締め付け
   に関する具体的な手順について、手順書に記載がなかったこと。
(2)推定原因
   原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁の弁棒の回転を防止するナットの締め付
  けに関する具体的な手順がなかったため、ナットの締め付けが不十分となっ
  ており、原子炉隔離時冷却系の運転時の振動と蒸気が弁を押す力により弁棒
  が回転し、弁が開く方向に動いたことから、当該系統を駆動する蒸気の量が
  増え、タービンの回転数が上昇し、自動停止に至ったものと推定いたしまし
  た。
(3)対策
  ・原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁の弁棒に当該ナットを取り付ける際は、
   十分な締め付けを行い、弁棒が回転しないことを確認する旨を手順書に
   反映いたします。
  ・原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁に弁棒の廻り止め用のビスを取り付け、
   弁棒の回転を防止することといたします。

4.今後の予定
  ・本日午後6時より、制御棒の引き抜きを開始し、原子炉を起動する予定で
   す。
  ・原子炉起動後、所定の原子炉圧力において、高圧注水系および原子炉隔離
   時冷却系の作動試験を行い、対策の妥当性を確認し、それらの結果をとり
   まとめて報告いたします。

5.安全性、外部への影響
   今回漏えいした蒸気の量はわずかであり、発電所敷地周辺に設置され空間
  線量率を測定するモニタリングポストおよび主排気筒放射線モニタ*8等の
  指示値は通常の変動範囲内であったことから、本事象による作業員および外
  部への放射能の影響はありません。

                                 以 上


*1 高圧注水系
    非常用炉心冷却系の一つで配管等の破断が比較的小さく、原子炉圧力が
   急激には下がらないような事故時に、原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプ
   を回し、原子炉に冷却水を注入することのできる系統。
*2 運転上の制限
    保安規定では原子炉の運転に関し、「運転上の制限」や「運転上の制限
   を満足しない場合に要求される措置」等が定められており、運転上の制限
   を満足しない場合には、要求される措置にもとづき対応することになる。
*3 原子炉隔離時冷却系
    何らかの原因により、通常の原子炉給水系が使用不可となり、原子炉水
   位が低下した場合等において、原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプを回し、
   原子炉の水位確保および炉心の冷却を行う系統。なお、本系統は非常用炉
   心冷却系ではない。
*4 保安規定の要求
    保安規定では原子炉圧力が1.04メガパスカル以上のときは高圧注水系と
   原子炉隔離時冷却系が動作可能であることを要求している。
    高圧注水系が動作可能でない場合は、原子炉隔離時冷却系の機能が健全
   であることを、原子炉隔離時冷却系が動作可能でない場合は、高圧注水系
   の機能が健全であることを確認することを要求している。
    また、高圧注水系と原子炉隔離時冷却系のいずれも動作可能でない場合
   は、24時間以内に原子炉を停止することを要求している。
*5 報告対象事象
    「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」の第十九条の十七に
   おいて、原子炉の事故故障等があった場合に経済産業大臣に報告すること
   を定めており、第五号において「原子炉施設の故障(原子炉の運転に及ぼ
   す支障が軽微なものを除く)により、運転上の制限を逸脱したとき」をそ
   の対象としている。
*6 蒸気止め弁の動作速度を調整する
    過去に、高圧注水系を急速起動すると、吸い込み配管を共有する原子炉
   隔離時冷却系の吸い込み配管の圧力が上昇した事象があったことから、蒸
   気止め弁の動作速度をゆるめ、タービンの回転上昇速度をゆるやかにする
   ことで、吸い込み配管の圧力上昇を抑えることととした。
*7 オリフィス
    流量を制御するために、配管の途中に設けた絞り穴。
*8 主排気筒放射線モニタ
    主排気筒放射線モニタは環境への放出にあたり、排気中の放射線を測定
   する装置。

 添付資料
・高圧注水系系統概略図(手動起動試験時)、原子炉隔離時冷却系統概略図 
 (手動起動試験時)(PDF 107KB)高圧注水系の蒸気加減弁からの蒸気漏えい事象概要図(PDF 33.5KB)高圧注水系の蒸気止め弁の構造概要図(PDF 47.6KB)原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁の構造図および事象発生概要図(PDF 135KB) 
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