合言葉は「ご安全に!」
“労働災害ゼロ”を目指す、東京電力の安全教育

2018/11/26

働く現場の安全を最優先とする意識をさらに高めることを目的に、2017年4月に開設された「安全考動センター」。そこで研修の講師を務める社員が、新たなコンセプトで取り組む安全教育の全容をご紹介します。

東京電力ホールディングス株式会社
安全推進室 安全考動センター

高野 文良

1990年入社。栃木、埼玉の営業所や制御所に勤務し、配電設備の保守・管理を担当。2013年からは配電保守の技術向上や人材育成に携わり、2017年7月から現職。
(肩書は2018年10月当時)

安全への意識を重視した参加型プログラム

私が勤務する東京電力「安全考動センター」では、ただ講義を聴くだけの受け身の研修ではなく、自ら考えて動く“考動”をモットーとした参加型の安全教育を行っています。
私たちは、この研修を受講したすべての社員が「当事者意識」「危険察知力」「阻止実行力」を身につけ、高い安全意識を持って現場で実践することを目指しています。

2011年、東京電力は福島第一原子力発電所の事故を起こし、今もなお多くの方々にご迷惑をおかけしています。私たちは福島事故を忘れることなく、社員一人ひとりが事故の最大の教訓である「安全に絶対はない」を肝に銘じ、すべての職場で安全への意識を高める取り組みを行っています。

それを教育面から支える、「安全考動センター」独自の教育プログラムをご紹介したいと思います。

「安全考動センター」には“導入”“体感”“体験”“体得”の4つのゾーンがあり、受講者には、各ゾーンを順番に回りながら研修を受けてもらいます。
それぞれのゾーンでは、強い印象を持って学ぶことができるさまざまな仕掛けや工夫を施しています。

1.導入ゾーン

まず、はじめに訪れる“導入ゾーン”では、受講者を取り巻くスクリーン上に、東京電力の歴史や電気事業の現状、安全への取り組みに対するトップメッセージが流れます。その映像から、自分たちが携わる電気事業の社会的意義を再認識してもらい、一人ひとりが安全に対する意識を高めてから研修に入ります。

2.体感ゾーン

ここでは、過去の労働災害の事例をパネル展示しています。単に災害事例を見て学ぶだけではなく、展示の一部を隠して説明することにより、災害に至った状況や原因を一緒に考えてもらいます。その結果、起きてしまった災害の怖さや悲惨さをより深く心に刻むことで教訓とし、災害を起こさないために何をすべきか、受講者それぞれにイメージしてもらいます。

その後はグループに分かれ、具体的な事例をもとに「なぜ事故に至ったのか」「自分ならどうするか」などを話し合い、災害を自分事として捉えながらワークショップ形式で学んでもらいます。
私たち講師は、各グループを回りながら、それぞれの話し合いがスムーズに進むようサポートします。

3.体験ゾーン

“体験ゾーン”では、実際に労働災害が起きた環境を擬似体験してもらいます。
全部で29の体験設備があり、以下のような5つのエリアに分かれています。

1.脚立・梯子作業体験、安全ネットによる墜落衝撃体験、飛来・落下体験など
2.高所足場歩行体験、階段昇降体験、つまずき・滑り体験など
3.グラインダー弾かれ体験、回転体巻き込まれ体験、吊り荷落下など
4.電工ドラム発熱体験、低圧感電体験(VR)、低圧短絡体験(VR)など
5.低圧感電体験、過電流・トラッキング体験、低圧短絡体験など

墜落衝撃体験(安全ネット)

階段昇降体験

回転体巻き込まれ体験

低圧短絡体験

受講者は、災害を擬似体験することで、災害が発生した状況やその裏に潜むヒューマンエラーの要因について学ぶことができます。

4.体得ゾーン

「研修の成果を現場での実践につなげる」という、私たちが掲げるゴールを達成するために位置付けているのが“体得ゾーン”です。
ここでは、研修全体で得た知識や体験を振り返り、実際の業務と関連づけ、明日から自分がすべきことを具現化し、共有し、宣言してもらいます。

最後には、全員で“ご安全に!”というあいさつを交わし、研修が終了します。
“ご安全に!”は、仲間を現場に送り出すときや作業の開始時など、安全意識をさらに一段引き上げたい時に交わされる共通のあいさつです。

この4つのゾーンで構成された安全教育プログラムでは、社員の業務内容や立場に合わせ、疑似体験の種類やワークショップの内容などを少しずつ変えています。
これまでに「安全考動センター」で研修を受けた社員は約1万1千人。2020年3月までに、東京電力で働く約3万人の社員すべてが受講する計画です。

“安全ならテプコ”と言われるために

私は中学生のころから、将来は、人々の暮らしを守るような職業につきたいと思っていました。ですから、暮らしになくてはならい電気を守るという仕事に大きな魅力を感じ、東京電力に入社しました。

入社後は徹底した研修を受け、その後の現場では、高所での作業に緊張する日々が続き、自らの選んだ道がいかに厳しいものであるかを思い知りました。
高い電柱に昇り、電気を取り扱うため、少しでも気を緩めれば事故に繫がりかねない設備と対峙することは、常に危険と隣り合わせの作業だからです。
しかし、どんな状況でも安全を確保できなければ、電気を守ることはできません。

配電現場での保守作業に長く携わってきた私は、そうした現場で、安全意識を保ち続けることがいかに難しいかも身を持って体験してきました。
ときには、電気を守るという使命感ゆえに危険な作業を優先させてしまったり、ほんの少しの過信が、自分だけでなく部下の怪我につながったこともあり、そのときのことを思い出すと悔しさが込み上げます。
だからこそ、今は、自らの経験と教訓を忘れることなく、すべての社員に安全への意識をしっかりと“体得”してもらえるよう、日々の研修に取り組んでいます。

安全考動センターの仲間たちとともに

「低廉で安定的な電気をお届けし、人々の暮らしを守る」
それが東京電力グループの使命であり、すべての社員があらゆる場所で、それぞれの立場で、日夜全力で仕事に取り組んでいます。教育を通して一人ひとりの安全意識を高め、それぞれの職場の安全を守ることのできる安全文化を醸成することが、私たち「安全考動センター」の使命です。

そんな私たちの究極の目標は、“カイゼンならトヨタ“と誰もがすぐに思い浮かべるように、“安全ならテプコ”とみなさまに言っていただけるようになることです。
そのために、「安全考動センター」の仲間たちとともに、これからも「労働災害ゼロ」に向けた挑戦を続けていきたいと思います。

関連情報

  • 東京電力報
    「1軒あたりの停電回数は1年間で平均0.06回。
    日本の経済活動や生活の“止まらない”を当たり前にする高度の保守オペレーション。それが配電マンの使命。」

    私たちと電気をつなぐ橋渡し役である制御部門では、日々更新される配電系統の監視・制御を24時間体制で行っている。電気の安定供給を担う配電マンの業務とは。

  • 東京電力報
    「配電に携わるすべてのスタッフの力を集結。
    鬼怒川決壊による停電から一丸となり電気の送電再開へ!」

    2015年9月、茨城県、栃木県を中心にした大雨の影響で、鬼怒川の堤防が決壊し、河川が氾濫。街は広域で浸水した。その危機に、彼らはどのように対応したのだろうか。

ページの先頭へ戻ります

  1. HOME
  2. 東京電力報
  3. 合言葉は「ご安全に!」
    “労働災害ゼロ”を目指す、東京電力の安全教育