“歩荷”とは、食料品や飲み物、家電製品など依頼のあった品を背負い、山のふもとから山小屋まで歩いて届ける人のことで、“ぼっか”と読みます。遠くから見ると大きな荷物だけが歩いているように見えることから、この名が付いたと言われています。そして、たくさんの荷物を運んでくれる感謝と、親しみをこめて“歩荷さん”と呼ばれています。
現代はテクノロジーの進化によって便利な世の中になったとは言え、大自然の中、とりわけ尾瀬のように自然保護のために多くの制限があるところでは、人の力に頼る場面がまだたくさん残されています。
尾瀬ヶ原は、枯れた植物が水中で腐らずに泥炭となって積み重なり、6000年以上の年月をかけて水面より高く盛り上がって形成された「高層湿原」です。この貴重な自然を守るため、国立公園内では自動車はもちろんバイクや自転車も利用することができません。必要物資はヘリコプターで運ぶこともできますが、天候に左右されやすく費用も高いことから、山小屋で提供される食事の材料など日常的な物資を歩いて運んでくれる歩荷さんは、なくてはならない存在です。
最近では、歩荷に密着した韓国のドキュメンタリー映画「幸福の速度」が公開されたり、尾瀬歩荷YouTuberとして活動しているマサトさんが尾瀬についての動画を頻繁に公開したりと、登山が趣味の方でなくても“歩荷”という職業を知る機会が増えてきました。
そしてこの夏、そんな歩荷に着目し、「尾瀬の歩荷」を夏休みの自由研究のテーマに、尾瀬で歩荷体験をした中学1年生がいました。歩荷は、梯子のような「背負子(しょいこ)」を背負って木道を歩きます。背負子に30キロの荷物を乗せ、鳩待峠から東電小屋まで物資を運ぶ体験をし、階段昇降時や風が吹いたときのバランス維持のきつさなど、歩荷の仕事の大変さを垣間見たようです。
実際に木道を歩いていると、歩荷さんとすれ違うことがあります。歩荷さんは、重い荷物のバランスをとりながら、崩れないよう集中して歩いているため、黙々と通り過ぎることがあるかもしれません。そんな時は、心のなかで「ありがとう!歩荷さん!」と思いながら、見守ってください。
背負子
夏休みの自由研究テーマに歩荷を扱った
中学生(左)と歩荷のマサトさん(右)