資料館

それぞれのフィールドにおいて、自然との共生や環境保護活動などに精力的に取り組んでいらっしゃるオピニオンリーダーの方々との対談内容をご紹介いたします。

尾瀬は生態学的感性を磨く大事な学びの場

<脳科学者>茂木健一郎(もぎけんいちろう)×<東京電力・永年尾瀬保護活動担当>竹内純子(たけうちすみこ)

ゲストは脳科学者の茂木健一郎さん。実は尾瀬を訪れるのは20年越しの夢だったそうで、それを今回ようやくかなえることができました。「クオリア」をキーワードとして脳と心の関係を研究する茂木さんの目に、初めての尾瀬はどう映ったのでしょうか。日本人と自然との関わり方を中心に、いろいろな興味深いお話をお聞かせいただきました。

<脳科学者>茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)

<脳科学者>茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)

1962年、東京都出身。脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職に就く。脳科学、認知科学をテーマにした多数の著書がある。文芸評論、美術評論にも取り組み、2006年1月より『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)のキャスターを務めている。

尾瀬の環境はラグジュアリー

ワタスゲの果穂が真っ盛りの尾瀬ヶ原にて
竹内
尾瀬は初めてですか?
茂木
大学院の研究室の先輩が、「尾瀬に大勢で行こう」と口癖のように言ってたんです。単なるダジャレじゃなくて、自分が行って感動したからみんなを連れて行きたかったらしくて。結局行けなかったんだけど、20年越しでその夢が果たせました。すごくラグジュアリーなところですね!
竹内
そうですね、私は日本一贅沢な仕事をしているとよく思います(笑)。
茂木
ここに来て、僕は絵を描きたくなりました。モネとかが来たら、すごくいい絵を描いたんじゃないかなあ。僕は上高地や釧路湿原も好きでよく行くんですけど、そういうところとはまた違うスケール感を感じました。バイオマス量が圧倒的に違いますね。密度が高い生態系っていうのかな。
竹内
山に囲まれているからそう感じるのかもしれませんね。
茂木
確かにある意味、このなかで生態系が閉じている印象を受けますよね。アリゾナに「バイオスフィア2」っていう人工的な生態系がつくられているんですけど、尾瀬ってそういう感じもありますよね。ここですべて循環していると思わせるような。

今、求められている生態学的な理解

群馬県では小中学生の「尾瀬学校」を推進している
尾瀬と向き合う茂木さん
竹内
先生がよくお使いになる「クオリア」という言葉がありますよね。改めて解説していただいてもいいですか。
茂木
クオリアっていうのは感覚のなかの質感のことで、要素ではなく、組み合わさった全体のシナジーから生まれるものなんです。尾瀬にはこれだけの湿原が広がっていて、たくさんの池塘があって、動植物の豊かな生態系があります。そのスケール感がなければ得られないクオリアがあるんですよ。
竹内
なるほど。鉢植えのミズバショウも可愛いとは思うけれど、やはりこの尾瀬の湿原で、カッコウの声が響くなかで目にするミズバショウが私にとっての「ミズバショウ」なんですが、そういうことでしょうか。
茂木
まさにそうです。
竹内
さらに長年の自然保護活動があってこの景色、生態系が守られていると知ったら、また違う感覚でミズバショウを見ることができるんでしょうね。
茂木
尾瀬には独特のクオリアがあるなと思いました。それはやっぱり来てみて初めてわかることなんだけど、「みんながいいという観光地だから来た」という人のなかには、そのクオリアに気づかないで通り過ぎていっちゃう人もいっぱいいるんじゃないかな。
竹内
せっかく来たからにはちゃんと自然とふれあっていただき、豊かな自然を育む心を次世代に引き継ぎたいというのが「東京電力自然学校」の理念なんですが、この独特のクオリアも伝えられたらいいですね!
茂木
この優しい自然と、優しい自然学校のお兄さん・お姉さんは、それこそ独特のクオリアになるでしょう(笑)。
竹内
先生は子どものころ、昆虫少年だったそうですね。私も虫取り網を持って走り回っていたので、子どもたちには自然にどっぷり浸かる経験をしてほしいなと思うんです。ただ、尾瀬は国立公園特別保護地区に指定されていて、生きものの採集が禁止されています。見るだけでもいいのでしょうか?
茂木
いいんですよ。見るだけと言っても、見方を深めればいろいろな学びがあります。日本では、生態学的な感性がまだかなり遅れていると思います。たとえば同じ湿原なのに、ワタスゲが多いところと少ないところがありますよね。それはなにか理由があるわけです。でも、日本ではまだそこまで考えさせる教育をしていないと思います。景色を見てただきれいだなと思ったり、単に植物の種類を理解したりするレベルではなく、もっと先に行けるはずなんです。とくに地球温暖化が問題になっている今は、まさに生態学的な理解、科学的な眼が大事です。なんとなくの体験論や感覚論の混ざった温暖化議論に流されないためにもね。そういう意味も含めて、尾瀬はとても大事な学びの場ですね。

山の生き方から得られるもの

広大な湿原とゆるやかな山々に囲まれた尾瀬ヶ原。それが尾瀬のクオリア
茂木
日本が山国であるというのは、日本人にとってすごく大事なことだと思います。あるテレビ番組で富山県の山岳救助隊の人を取り上げたときに、「山で困っている人がいたら、みんなで助け合うのは当然でしょ」って言っていたんです。「それは私の仕事じゃない」ってことを言わないんですよね。人間の根元というか、ギリギリのところだからこそみんなで助け合うんだってことに、すごく感動しました。厳しいからこそ喜びに満ちているというか。だから山に行っているかぎり日本人は大丈夫だという気がします。
竹内
じつは相当の山好きですか!?(笑)
茂木
大きな山に登ったことはないですが、子どもの頃から峻厳たる頂に憧れを抱いてました。両親と一緒によく山を歩きましたし、自然とのふれあいは生活のなかに組み込まれていました。
竹内
ご両親は心がけて茂木さんを自然のなかに連れ出したんでしょうか?
茂木
それもあるかもしれないけど、当時は山ブームでしたから特別なことをしている感覚はなかったですよ。飯盛山から美ノ森を歩いたり、陣馬山に登ったり。山で会ったら「こんにちは」ってあいさつするのは昔から変わらない、とてもいい習慣ですよね。
竹内
山に来ると見知らぬ人とも普通に話をしますよね。先ほども通りかかった方からおにぎりをいただいたり、現代社会では少なくなった人と人とのふれあいがありますよね。
茂木
食事のありがたさも身に染みます。カナダで1週間カヌーを漕いで旅をしたことがあるんですが、食に対する切迫感が違うんです。山に来ると、食事は命をつなぐものだと実感できて、「いただきます」があいさつではなく心の底からわき出る言葉になります。ああいう経験って、貴重ですよ。

“我慢する”チャンスを

茂木
尾瀬のような場所には、もっと若い人に来てほしいですよね。
竹内
これでも尾瀬は多いほうなんですよ。環境の時代といわれるのに、山ではあまり若い人に会わない現状は、寂しいし、なんとかしたいと思います。
茂木
文明が情報中心になっているからかもしれませんね。携帯電話もかからない尾瀬は、ヨーロッパやアメリカよりも心理的な距離感があるのかも。だからこそ貴重なんですね。クオリアは、その環境に包まれないと感じられないもので、しかもそれは意識で感じるものではなく、無意識のなかに染み込んでいくものなんです。それを若いときにやっておくことが重要です。美しい自然に対する観察眼と自分の身に迫る危険を察知する能力って、どこか似ていると思います。すれ違う人の顔を見ていると、どういう「眼」を持った人か、わかるような気がしませんか? だから子どものときにどれだけ自然とふれあうかは大きいと思います。なにより忍耐強くなりますしね。
竹内
そう。今の社会では我慢をすることがなかなかないから、自然のなかで不自由な思いや不快な思いをするのは、ある意味「チャンス」だと思うんです。そこで我慢することを覚えるし、いろいろ工夫もするでしょうから。
茂木
そういう工夫は脳にもとてもいいんですよ! 尾瀬は心にも脳にもいい場所ですね。
尾瀬での対談を終えて

茂木健一郎=文

アクセスがいいわりには純度の高い自然がちゃんと保護されている点、環境に配慮しながら人も楽しめるようにいろんな工夫がされているところがすごく印象に残りました。日本のハイテクが進歩するにしたがって、尾瀬と人間との関わりは、まだこれから進化していくと思いますよ、環境に負荷をかけない形でね。まだ1回来ただけだから、尾瀬がわかったとはとても言えませんが、今度はニッコウキスゲが咲いている時期に来てみたいですね。

2010年3月15日更新

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木原実 気象予報士。

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速水亨 速水林業代表。

2009年9月15日更新

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さかなクン お魚らいふ・コーディネーター。

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