タンク解体での作業員の被ばく線量を約3割低減
「レーザー除染工法」で廃炉作業がより安全に

2019/10/09

福島第一原子力発電所では、多核種除去設備等で浄化処理を行った水(処理水)をタンクで貯蔵しています。タンクは、短期間で設置可能なボルト締めによる組み立て式のフランジ型から、漏えいリスクが小さく信頼性が高い溶接型への切り替えを進め、2019年3月に処理水の移送を完了しました。そして、役割を終えたフランジ型タンクは、2015年6月から解体作業を進めています。
解体作業では、解体前に、タンク内面に付着した放射性物質を含むダストの飛散抑制が必要になります。従来は付着したダストを塗装により固着させる工法を採用していましたが、この度、ダストを除去できる新技術を活用した「レーザー除染工法」の技術開発と試験を進め、2019年8月29日に本格運用を開始しました。従来と同等のダスト飛散抑制ができ、さらに、解体作業時の作業員の放射線被ばくを低減できます。また、解体後に行うタンク解体片の除染作業でも効率が上がります。

本プロジェクトの始動から導入まで携わったメンバーに、作業にまつわるエピソードを聞きました。

大成建設株式会社
東北支店 東電福一関連工事作業所
専任部長

伊藤 文雄

2018年2月に福島第一原子力発電所に赴任。同年4月からレーザー除染の担当として協力会社とともにレーザー除染の技術開発に携わっている。

株式会社東洋ユニオン
代表取締役

中村 弘

2011年9月から福島第一原子力発電所でタンクの除染作業に携わる。タンク内除染で活用する機器の開発・運用を担当。

東京電力ホールディングス株式会社
福島第一廃炉推進カンパニー
福島第一原子力発電所 土木部 貯留設備土木グループ

佐々木 辰茂

2017年7月からフランジ型タンクの解体業務に従事。レーザー除染の基礎検討から携わり、現在はレーザー除染の現場を担当している。

ダスト飛散をもっと抑制したい。この思いでたどり着いたレーザー除染

佐々木「事故発生当初は、放射性物質を含む水を貯蔵するために、比較的短期での調達と建設が可能なフランジ型タンクを多く利用していました。ただ、フランジ型タンクは継ぎ目からの水漏れが発生するなどリスクを抱えており、より信頼性の高い溶接型タンクへの置き換えを行いつつ、2015年6月からフランジ型タンクの解体作業を行っています。2019年9月末時点で解体対象の334基のうち、すでに240基の解体が完了し、残り94基となっています。
タンク解体は、放射性物質を含む水を抜いた後、散水洗浄することで内部の表面に付着した放射性物質を流し、底部に溜まった残水をポンプで回収します。散水洗浄作業では放射性物質を完全に洗い流すことはできず、解体作業中に放射性物質を含んだダストが飛散しないようにするため、内面に塗料を塗って封じ込めます。こうしてリスクを低減してからタンクを解体していきます。
レーザー除染は、塗装で封じ込める代わりにレーザーでタンク内面に付着した放射性物質そのものを除去し、ダスト飛散を抑制してから解体するための取り組みです」

伊藤「塗装で封じ込める代わりにダスト飛散をより効果的、安全に抑制できる手段がないか、以前から大成建設として考えていました。2017年秋、タンク解体作業で共に作業をしている東洋ユニオンさんから、レーザー技術を活用したダスト除去によって放射線量を低減できる可能性があるという話をいただき、2社で東京電力さんに提案しました」

中村「ドライアイスを使ったアスベストやダイオキシン等の有害物質を除去する作業を行った当社の経験をもとに開発しました。実はレーザー技術自体を除染に使用する例はこれが初めてではありません。以前から実用化されていたのですが、レーザー出力が小さく、タンク内の放射性物質除去には使えないレベルでした。それがちょうど2017年頃より、高出力で有害物質を除去できるレーザー技術が登場し、塗装に代わるものとして使える可能性が出てきたので、大成建設さんに提案しました」

伊藤「それから当社と東洋ユニオンさんで、タンクの除染に使えるレベルまでレーザー技術の向上を進めていきました。そもそも従来のレーザー技術では50〜100mm程度の距離に焦点を置いて照射するのが通常で、当時、新たに登場した技術でも最大で300mmが精一杯でした。一方、タンク内の放射性物質の除去では、レーザー装置をタンク内にある障害物を避けて設置でき、かつ装置自体に当たる放射線も低減するため、1,000mmほど離れたところからレーザーを照射できる機種を選定しました。レーザー技術向上への技術開発が最初のテーマとなりました」

タンク内面に合わせてレーザー出力、照射回数などを何度も試した

中村「当社は、様々な除染用機器を開発・製造していますが、今回使用したレーザー装置は、市販のレーザー機器を組み合わせ、東京電力さんのニーズにマッチしたものを選定した上で、現場レベルで実用化し、カスタマイズしたものです。2018年1月からレーザー照射による除染の試験をスタートしています」

佐々木「まずはタンク内面の放射性物質がどの深さまで浸透しているのか、つまり防食塗装だけが汚染しているのか、それとも鋼材(母材)まで浸透しているのかを確認するため、実際の解体片を用いて、鋼材に汚染を拡げないよう注意しながら、塗装を除去した状態で鋼材の放射性物質がどこまで浸透しているのか測定しました。その結果、タンク内面の塗装をレーザーで除去すれば放射性物質を大幅に減らせることが分かりました。この結果をもとに、タンクと同様の材料を使って現場を再現し、放射性物質がない状況での試験(コールド試験)を実施しました。試験は、レーザーで塗装だけを除去するために適切な出力や走査スピード、回数などのパラメータの組み合わせについて、約300種類を試し、3社で議論を重ねながら、最適と思われる組み合わせを抽出していきました。
ところが、最適パラメータと思った組み合わせで、実際に放射性物質が付着した状況で除去する試験を実施してみると、放射線量がなかなか低減しませんでした。見た目にはタンク内の塗装は除去できており、その下の鋼材が見える状態になっているのですが、なぜか線量は落ちません。その理由は、各タンクの内面構造には微妙な個体差がある上、塗装の劣化や鋼材の錆・腐食なども影響し、コールド試験で想定した状況と現場の状況が異なっていたからでした。そこで、現場に応じてタンク内面の状況も考慮した上で、レーザーの出力や照射回数などのパラメータの組み合わせを何度も何度も試し、トライ・アンド・エラーでパラメータを最初から見つけ直さなければなりませんでした。試験においてはこれが最も大きな苦労でした」

中村「また、レーザーで除去した放射性物質の飛散を防ぎ、外部に漏らさないようにするため、レーザー照射で発生した煙を的確に回収し、集塵機に集める必要がありました。これについても煙の流れを可視化する試験を実施した上で、タンク内部を負圧に保つ管理を徹底し、ダストを飛散させない工夫を重ねていきました」

佐々木「このシステムも、東洋ユニオンさんがダイオキシンなどの回収に使っていた既存製品の集塵機などを活用しました。レーザーについてもそうですが、既存の技術や製品をいかに組み合わせて効果を上げるかが、今回の大きなポイントでした」

表面線量を約7割削減し、作業員の被ばく線量も約3割低減へ

佐々木「結果として最適なパラメータを発見でき、タンク内面の表面線量は、塗装による封じ込めと比べて平均で約7割削減できるという見込みが立ちました。適用の初期の段階では、作業員がタンク上部に登り手動でレーザー除染装置のオン・オフを行っていた時期がありました。防護服と全面マスクを着用して、一人で作業をしていたので、作業自体だけでなく線量管理にも労力がかかりましたし、夏場においては熱中症対策も必須でした。本格運用を開始した現在では、コントロールルームで作業員が一人で監視・制御を遠隔で行う体制に移行できています。ただし、フランジ型タンク解体作業においては外側の側面だけでなく、タンク内部において底面のボルト外し等の作業が依然としてあります。作業全体としては、作業員の被ばく線量をレーザー除染適用前と比較して約3割低減できると見込んでいます。
そして2019年8月29日から、タンク内面の側面におけるレーザー除染が本格運用に入っています。現時点までの成果は、従来の塗装による作業をレーザーに置き換えることができたということで学会に報告しています。レーザーをこれほど大規模な除染で活用したのは国内で初めての例になります」

中村「放射性物質が付着したタンク内面から長い距離を保ち除染できるという点ではレーザーがやはり優れています。国家プロジェクトである廃炉作業に携われること自体を誇りと感じ、この技術の開発で得た知見を生かしながら、廃炉の工程でさらに貢献していきたいと考えています」

伊藤「開発に携わった私たちとしては、この技術がタンクの除染を効率的かつ安全に行えるツールであり、この先にもつながるという確信を持って取り組んできました。将来的には、タンクの除染だけでなく、タンク以外の敷き鉄板や鋼材、コンクリートなどにも適用できるようになるでしょう。それが実現できれば、廃炉作業のさらなるスピードアップに役立てられると思います」

溶接型タンク(左)とフランジ型タンク(右)を背景に撮影

関連情報

  • 福島第一原子力発電所における新技術「レーザー除染」によるフランジタンク解体作業の様子

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