国内初の「地産地消エネルギーシステム」
~再生可能エネルギー活用における新しい選択肢の誕生~
2022/05/31
2020年4月、千葉県長柄町のリゾート施設「Sport & Do Resort リソルの森(以下、「リソルの森」)」で、国内初となる「地産地消エネルギーシステム」が導入されました。そのプロジェクトは、令和3年度の新エネ大賞※において新エネルギー財団会長賞を受賞。TEPCO担当者を含むプロジェクトのキーパーソンが、立ち上げの背景やこれまでの軌跡を振り返りました。
※新エネ大賞:財団法人新エネルギー財団の表彰制度。新エネルギーの一層の導入促進と普及及び啓発を図るため、新エネルギーに係る商品及び新エネルギーの導入、普及啓発活動のうち優れたものを表彰する。
東京電力ホールディングス株式会社
技術戦略ユニット 技術統括室 プロデューサー
矢田部 隆志
本プロジェクトでは東京電力グループとしての技術開発に向けた企画・アクションプランの立案を担当。エネルギー政策と国家プロジェクトへの参画・補助事業採択に向けた対応にもあたった。
現在は、主に、東京電力グループでのエネルギー利用技術の技術戦略・電化の方策策定・エネルギー政策対応に従事している。
リソル土地開発株式会社 代表取締役社長
リソルホールディングス株式会社グループ上席役員
リソル総合研究所株式会社 代表取締役社長
湯田 幸樹 様
プロジェクト当時、「リソルの森」の運営を行うリソルの森株式会社代表取締役社長として、本システムを発注。
現在も「人にやさしい」「社会にやさしい」「地球にやさしい」を長期方針として掲げるリソルグループで、土地を活用した再生可能エネルギー拡大を積極的に推進している。
株式会社東光高岳
イノベーション推進部スマートグリッド推進部
石渡 剛久 様
本プロジェクトのエネルギーマネジメントシステム(EMS)の開発および関連設備の導入工事を担当。
現在は、自社でスマートグリッド関連の業務を担当。過去に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の案件であるインドでの系統安定化、再生可能エネルギー大量導入に向けた系統安定化技術開発、山梨県米倉山における水素製造技術の開発に従事した技術をいかし、スマートグリッド向けEMSの開発・設計を行っている。
太陽光発電の普及、その「先」へ
矢田部「カーボンニュートラルの実現が国際的な命題となる中で、再生可能エネルギー活用の重要性は年々高まっています。その中でも太陽光発電については1990年代から一般家庭も含めた導入が始まり、2012年に固定価格買取制度(FIT)※が導入されてからは急速に普及が進みました。
一方で、その買取費用が国民負担となること、系統(送電線など送電用の各種設備)の容量を多く使ってしまうことなどから、東京電力グループではFITに頼らない次の時代の再エネ発電のあり方を模索し続けています。その対策の一つが、今回『リソルの森』様で導入いただいた『地産地消エネルギーシステム』。太陽光パネルで発電した電気を売るのではなく、自ら使用することで前述の課題をクリアする、国内初(導入時)のスキームです」
※固定価格買取制度(FIT):再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)からつくられた電気を、電力会社が”一定価格”で”一定期間”買い取ることを国が約束する制度。
湯田様(以下敬称略)「皆さんご存じのように日本政府は2050年脱炭素化社会の実現を目指しており、私たち事業者もその達成に向け協力していく必要があります。社会的にも環境意識が高まり、製品やサービスを選ぶ際に『CO2削減に向けた活動を行っているか否か』を判断基準とする人も増えていくことでしょう。とりわけリゾート施設を運営する当社のような企業にとって、再生可能エネルギーの活用は重要な命題であるといえます」
矢田部「自然豊かな『リソルの森』のご利用者さまは、そういった環境意識の高い方も多いでしょうね」
湯田「おっしゃるとおりです。幸い敷地に余裕があり、太陽光パネルを設置することは大きなハードルにはなりません。ここで発電した電力を最も有効に活用する方法として、それこそ『地産地消』というアプローチも視野に入れながら模索していた2016年頃、東京電力さんとお会いすることができました。当時お力添えいただいていた千葉大学や株式会社日建設計総合研究所の皆さんとともにシステムのグランドデザインを描き、プロジェクトとして本格的に動き出したのは2018年でした」
電力の需要と供給を、いかにコントロールするか?
矢田部「『リソルの森』内に設置した太陽光パネルから得られた電力を、同敷地内のスポーツ施設(メディカルトレーニングセンター)とゴルフ場(真名カントリークラブ)の2カ所で使用する──これが、本システムの概要となります。太陽光パネルとスポーツ施設をつなぐ配電線(自営線)は新設ですが、そこで使い切れなかった余剰電力をゴルフ場に送り届ける際には既設の配電線を利用(自己託送)することをご提案しました」
湯田「すべてを一からつくるのではなく、既存の設備を活用してシステムを導入できるというのはありがたかったですね」
矢田部「そう言っていただけると幸いです。事業者様の費用負担を、ひいては太陽光発電のさらなる普及を推し進めるための社会的コストを抑えることも狙いの一つなので。一方で、天候によって発電量が変化する太陽光発電をエネルギー源として利用するには、その変動を吸収する仕組みが必要になります。今回そのために設置したのが、蓄電池と蓄熱式ヒートポンプ給湯機。スポーツ施設には蓄電池を置いて需給をコントロールし、ゴルフ場では貯湯槽内の温水として熱エネルギーを保存し、発電した電力を無駄なく最大限に利用できるプランを考案しました」
石渡様(以下敬称略)「こうした一連のシステムを、実際に形にしていくフェーズから参加したのが当社、東光高岳です。電力インフラ向けの受変電・配電設備などを事業の軸としてきた当社ですが、今回のプロジェクトは前例のない国内初の試み。参考にできる前例がない中、どんな太陽光パネルが何枚必要か、自営線はどのようなスペックのものが適しているのかなど、東京電力様と何度となく議論を重ね、すべてを一から形作っていきました」
矢田部「東光高岳様とは再生可能エネルギーの普及に向けたNEDOの実証実験などでもご一緒させていただいたこともあり、今回もその高い技術力でプロジェクトを支えていただきました。本当に頼もしかったです。…が、それにしても今回は手強かったですね」
石渡「はい、実に(笑)。とりわけ高いハードルだったのが、電力の需要と供給をバランスさせるEMS(エネルギーマネジメントシステム)の設計でした。一般の配電網の中に組み込むEMSは当社にも実績がありますが、今回のものは電力の流れも、つなぐ設備もまったく異なります。また、既設の配電線という公共の設備を利用して電力を送る以上、その使用量を電力広域的運営推進機関「OCCTO」に報告する義務が生じます。そのためのデータを自動的に算出して送信する仕組みも組み込むことになりました。何もかもが手探りで、試行錯誤を繰り返しながらの実施設計作業。およそ1年を費やして何とか実現への道筋を見いだし、2019年、ようやく工事をスタートさせることができました」
湯田「覚えている方も多いと思いますが、2019年といえば記録的な台風が相次いで千葉県を中心とした関東全域を通過した年でした。ただでさえ山間部に立地する当施設での工事 ──太陽光パネル設置のための整地や、急斜面を含むおよそ1キロメートルの自営線埋設など── は一筋縄ではいかない作業でしたが、自然災害がその難易度をさらに引き上げることになってしまいました。台風で施設が停電したこともありましたが、そんなときも懐中電灯で作業を進めていただくなど、東光高岳様とその協力業者の皆様には力を尽くしていただきました。本当にありがとうございました」
石渡「工事を完遂し、EMSを設置できたときは心からホッとしました」
真価の発揮はむしろこれから
湯田「こうした皆さんの努力が実り、2020年4月、ついに工事が完了。日本初の地産地消エネルギーシステムが、ここリソルの森で動き出すこととなりました。電気と熱の両方で化石燃料の代替がなされ、総電力量に占める再エネ自家発電比率30.6%を達成したほか、温浴施設ボイラの液化石油ガス使用量は前年比28.7%の削減を実現しました」
矢田部「目に見える成果につながったことは、我々としても喜ばしい限りです」
石渡「そうですね。当社としても、本プロジェクトに参加させていただけたのは本当に光栄なことだったと思っています。システム構築に向けての試行錯誤の過程で多くの学びを得ることができましたし、新エネ大賞の『新エネルギー財団会長賞』受賞案件に携わることができたという実績は本当に大きい。すでに複数のお問い合わせをいただいており、未来につながる仕事だったことを実感しています」
湯田「このたび本システムの導入を実現できたこと、そして栄誉ある賞をいただけたことについて、改めて皆さんのご協力にお礼申し上げます。今のところはコロナ禍の影響もあって想定よりもやや控えめな運用に留まっていますが、今後、より多くの方に施設を利用いただける状況になっていくことでしょう。燃料価格の影響を抑える意味でも、今後ますます本システムがその強みを発揮していくことを期待しています。引き続き、どうぞよろしくお願いします」
矢田部「こちらこそ、ぜひともよろしくお願いします。かねてより地産地消でエネルギーを活用するアプローチには大きな可能性があると考えていましたが、それを具現化できたのはリソルの森様が手を挙げてくださったから。前例のない取り組みにはリスクがつきものですが、それでも挑戦していただいたことで第一歩を踏み出すことができました。改めて感謝申し上げます。
最適運用に向けて東光高岳様とともに継続的なサポートを行い、システムとしての完成度を高めていければと考えています。私も環境大臣のヒアリングを受けたのですが、国では脱炭素先行地域づくり事業や配電事業ライセンス制度などエネルギーの地産地消に向けた施策が本格的に国策として進められ始めているので、本件をモデルケースとして地産地消でエネルギーをまかなう動きが各地に広がり、カーボンニュートラル社会の実現につながっていく──そんな将来像を夢見つつ、取り組みを続けていきたいと思っています!」