拓け、“超々高電圧”送電の新時代! 100万ボルト変電機器の開発&実証試験が「でんきの礎」顕彰を受賞

2021/04/06

拓け、“超々高電圧”送電の新時代! 100万ボルト変電機器の開発&実証試験が「でんきの礎」顕彰を受賞

より多くの電力を、遠くまで効率よく送るために。東京電力パワーグリッドは多くのメーカーや官庁、研究機関とともにUHV(Ultra-High Voltage、超々高電圧)送電技術の確立に取り組んできました。要となるのは、100万ボルトの電圧に耐えられる変電機器の開発と、それが実用に耐えうるか否かを見定める実証試験。その技術が国際標準化にあたって大きく反映されることにもなったこの取り組みは2021年2月、一般社団法人電気学会の顕彰制度「でんきの礎」を受賞しました。本プロジェクトはどのような歩みを経てここまで来たのか?そして今後、どこに向かっていくのか?携わってきた社員に聞きました。

東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 変電技術担当 部長
スペシャリスト(変電設備設計・保全技術)兼 技術統括室国際規格調査グループ

塚尾 茂之

1994年の入社以来、変電所設計および技術開発、変電設備の保全高度化業務に従事。2018年より現職。今回の顕彰対象となったUHV機器試験場には建設から竣工検査、主たる実証試験、その後の運転データ取得などに一貫して携わる。

塚尾 茂之

「100万ボルト」の意義とハードル

発電所でつくった電気を遠隔地まで効率よく送るには、より高い電圧での送電が必要になります。2021年現在、日本では50万ボルトの「超高電圧」送電が採用されていますが、「超々高電圧(以下UHV)」と呼ばれる次世代送電技術で用いられるのは、その倍となる100万ボルト。これが実現すれば理論上は現在の3~4倍もの電気を送れるようになり、今後の電力需要が高まった際にもゆとりを持って対応できるようになります。当社は1970年代からその開発にチャレンジし、1990年代からは実証試験に移行。すでに実用可能なレベルに達しており、今回はこの一連の取り組みが評価された形になります。

系統図

系統図

東京電力のUHV交流送電線

東京電力のUHV交流送電線

従来の倍もの電圧で正常に送電を行うためには、それに耐えうる設備や機器が必要となります。電圧が高いということは、より厳重に絶縁を行わなくてはならないということ。単純に考えれば絶縁体を分厚くし、設備をそれだけ大型化していくことになりますが、それではコストも甚大になり、工場から設置場所まで運ぶことも難しくなってしまいます。ですから、落雷や異常電圧から設備を守る避雷器、いざというときにブレーカーの役割を果たすガス遮断器、100万ボルトの電圧を50万ボルトに調整する変圧器など、変電所に設置される機器の多くで「高い絶縁性」と「コンパクトさ」を両立させる必要がありました。

変圧器の輸送風景

変圧器の輸送風景。当時、貨車輸送やトレーラーでの牽引となるため、トンネルや橋梁などを通れないサイズでは実用が困難となる

こうした課題をはじめとするさまざまなハードルに立ち向かっていったのが、本プロジェクトの前半戦。当社だけでなく、東芝エネルギーシステムズ、日立製作所、三菱電機、日本ガイシといったメーカーも工夫を重ね、開発を進めていきました。学術研究所や大学といった学識経験者、そして官庁もこれをサポート。まさにオールジャパンで取り組んだプロジェクトだったといっても過言ではないでしょう。

試験場建設に携わった当社及び社外プロジェクトメンバーの皆様

試験場建設に携わった当社及び社外プロジェクトメンバーの皆様(後列左から6人目が塚尾さん)

パイオニアワークだからこその 開発「後」の重要性

海外においてもさまざまな国がUHVへのチャレンジを行っていましたが、お手本とすべき技術も規格もまだ確立はされておらず、まさに未知の世界を切り拓いていくパイオニアワークとなりました。だからこそ、開発を終えた「後」が重要となります。しっかりとその性能を見定め、さまざまな条件下でも健全に機能し続けるかどうかなどを慎重に見極めていく必要がありました。
私自身が本プロジェクトに携わり始めたのは、まさにそのフェーズが開発から実証試験へと移っていく1990年代のこと。群馬県の新榛名変電所構内に設置されるUHV機器試験場の建設まっただ中で、前例のない挑戦に携われることにワクワクしたのをよく覚えています。

UHV機器据付の様子

UHV機器据付の様子

試験場建設の様子

試験場建設の様子

試験場には実器と同様の性能を備えた変電設備が据え付けられており、それらを来たるべき「本番」と同様の条件で稼働させながら、さまざまな項目について試験を行っていきます。地震や塩害といった今後日本で稼働させていく上で直面する環境条件も考慮して、あらゆる角度からデータを収集し、分析。私は担当者とはいえ入社から日が浅く、データ分析のなんたるかを十分に理解しているとは言えない状況でしたので、社内外の専門家の指導を仰ぎながら、世界初のミッションに取り組んでいきました。手探りではありましたが、メーカー各社と協力しながら、一つひとつ検証試験をクリアし、時には失敗と改善を繰り返す日々は楽しかったですね。UHV技術の魅力にどんどん引き込まれていく自分を感じていました。

試験場での有益な実証データの取得、蓄積により、2005年頃には実用可能な水準まで検証を進めることができました。100万ボルトに対応可能な送電線も、新潟ー山梨ルートと福島ー群馬ルートの2ルートが完成。ここで確立した技術をベースに、当社は研究機関やメーカーとともに中国でのUHV送変電設備の技術コンサルティングを実施しました。大きな市場を持つ同国で実績を残したこともあって、その後のUHV国際標準化においては日本の技術が大きく反映される結果になりました。私はその中の変電所設計に関する標準化に携わり、共同主査として各国代表との交渉や調整を担当。どの国にとっても使い勝手のよい、バランスの取れた規格の実現に努めたつもりです。

2015年12月中国・南京 UHV芫湖(WUHU)変電所

2015年12月中国・南京 UHV芫湖(WUHU)変電所(前列左から5番目が塚尾さん)

2017年11月インド・グルガオンでの国際会議

2017年11月インド・グルガオンでの国際会議

2018年9月スイス・バーデンでの国際会議

2018年9月スイス・バーデンでの国際会議

積み重ねてきた挑戦が未来への「礎」に

電気学会の「でんきの礎」は、電気学術・技術の発展史において重要な成果を挙げた「モノ」「こと」「人」に贈られる顕彰です。私は2020年3月に応募の話しを頂き、多くの関係者にご協力いただきながら書類審査や選考審査ヒアリングなどの窓口を務めさせてさせていただきました。ここまで述べてきたとおり、本プロジェクトは社内外の多くの方々が積み重ねてきた挑戦の結晶。それが未来への「礎」として認められたことは本当に喜ばしいですし、その一端に携われたことを、心から誇らしく思っています。

今後、日本国内では2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、太陽光や洋上風力などを活用した新たなエネルギー戦略が展開されていきます。それらの大規模な再生可能エネルギーを取りまとめ、消費地まで無駄なく届けるためにはUHVの活用も検討されていくはず。必要となったときに速やかに対応できるよう、準備を万端にしておきたいですね。

「でんきの礎」顕彰状と副賞の青銅プレート

「でんきの礎」顕彰状と副賞の青銅プレート

実証試験の最前線で

実証試験の最前線で

群馬県のUHV機器試験場では、今もなお実証試験が続けられています。その取り組みと顕彰を受けての思いを、現在の担当者に聞きました。

実装化に向けた準備と、もうひとつのミッション

東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 変電グループ 設計第二チーム チームリーダー

石川 渉

2008年入社。群馬支店(当時)配属となり、以降、変電設備の保守・運転・工事業務および機器開発業務などに従事する。2020年より現職。

石川 渉

社外の企業や研究機関を巻き込んで、それまで世の中になかったものを開発し、世界中の人々の暮らしに貢献する──本プロジェクトに挑んだ先人たちの姿勢は当社変電部門の文化となり、その記録は私達にとっての「教科書」のような存在になっています。そのチャレンジに連なる実証試験を担当していることについては以前から光栄に感じていましたが、今回の「でんきの礎」選出の報せを聞いて、改めて誇らしく思いました。

私たちが取り組んでいる実証試験の目的は、信頼性をさらに高めて国内でUHV送電が実装されるときに向けた万全の準備を進めることです。しかし、それがすべてではありません。現在使用されている50万ボルトなどの送電設備をより効率的に、より強靱に、そしてよりコンパクトにするための知見を収集することも重要なミッション。さらに、デジタル技術を取り入れた新たな変電所のあり方も追求しています。未来を見すえ、電力サービスをご利用いただいているお客さまにしっかりとメリットを提供できるよう、取り組みを進めていきたいと考えています。

「礎」の地で、変電所のさらなる進化に挑む

東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 変電グループ 設計第二チーム

柴田 光平

2002年入社。東京支店配属となり、東京エリア内にて変電設備の運転保守業務に携わる。2019年より現職。

柴田 光平

私は17年以上にわたって変電設備の運転保守業務に携わってきたのですが、このUHV実証試験場の管理運営業務に携わるようになって驚いたことがあります。それは、自分がそれまで扱ってきた今日の変電設備のそこかしこに、この試験場で得られたノウハウが取り入れられているということ。まさに「礎」をつくってきた場所で働けていることは、大きなモチベーションになっています。

現場経験が長かったので、機器に異常の兆候が見られたときの対処法はそれなりに身についているつもりですが、試験場ではただ直せばいいわけではありません。そこからどのようなノウハウが得られるか、原因の特定方法や修理のやり方などに新しいアプローチはないかなどを検証していく必要がある。環境は似ていても勝手が違うので最初のうちは戸惑いましたが、次第にその試行錯誤を楽しめるようになってきました。何より、仕事のスケールが大きい。最先端の知見を備えた社内外のエンジニアたちと力を合わせて、変電所の進化に貢献していきたいですね。

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