太陽光発電の導入拡大を支えるために、新しいシステムの開発に挑む

2018/04/06

CO2を排出しないクリーンな電源として、急速に増加する太陽光発電ですが、環境にやさしい反面、課題もあります。東京電力の経営技術戦略研究所では、そうした課題の解決に向け、早稲田大学とともに新しいシステムの開発に取り組んでいます。その共同研究に従事する社員が、早稲田大学の研究員の方とのお話も交えながら、産学連携で進められるプロジェクトについて語ります。

東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所
技術開発部 需要家エリア
分散電源制御プロジェクト

前田 亮

2011年4月入社。川崎支社の配電保守グループ、設備サービスグループを経て、2016年8月より経営技術戦略研究所の技術開発部・分散電源技術グループへ。2017年より技術開発部の需要家エリアで、分散電源制御プロジェクトに携わる。

急速に拡大する太陽光発電

太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーを利用した発電は、環境にやさしい発電方式として普及が進んでおり、なかでも太陽光発電は、ここ数年で劇的に増加しています。
太陽光発電には、燃料費がかからない、発電時にCO2を排出しないなど多くのメリットがあります。その一方で、発電量が天候に左右される、夜間は発電ができないなどの課題もあります。また、太陽光発電が普及すると、火力発電などの大規模発電所も含めた全体の発電量に占める太陽光発電の発電量の割合が大きくなるため、雲による影などで太陽光発電の発電量が一斉に変化すると、全体の発電量に影響を与えることがあります。

一般にはあまり知られていないのですが、電気を安定してお届けするには、常に電気の発電量と使用量が等しくなるように調整する必要があります。電気の発電量と使用量のバランスを「需給バランス」と呼んでいますが、太陽光発電は、天気などに左右されて発電量をコントロールできないので、大量に導入されるとこの「需給バランス」を保つことが難しくなります。
「需給バランス」が崩れると周波数※1が乱れ、最悪の場合は停電となることもあります。
周波数は、わずかな変動でも一部の電気設備に影響が出ることもあります。そのため、「需給バランス」を保つための1つの技術として、太陽光発電の発電量をコントロールすることにチャレンジしています。
私たち東京電力・経営技術戦略研究所では、太陽光発電の導入拡大に備え、専門のプロジェクトチームを結成してNEDO-PV出力制御実証事業※2に参画し、大学の研究者と協力しながら日々研究開発や実証試験に取り組んでいます。

※1 周波数とは?
電気には、乾電池や自動車のバッテリーのような「直流」と、コンセントのような「交流」があります。「直流」は、乾電池の電圧が1.5V、通常の自動車のバッテリーの電圧が12Vと常に一定ですが、「交流」は、電圧がプラスとマイナスに変化し、規則正しい波のように大きくなったり小さくなったりしています。この1回の波の変化が、1秒間に何回あるのかを表すのが周波数で、単位はヘルツ(Hz)です。東京電力では、東日本の標準周波数である50Hzを保つように電力設備を運用しています。

※2 NEDO-PV出力制御実証事業とは?
太陽光発電の遠隔制御手法の確立と周辺技術の開発を行い、再生可能エネルギーの連系拡大を目指すための実証事業。当社はこの実証事業の中で、太陽光発電を遠隔でコントロールするための装置であるスマートインバータとDERMS(Distributed Energy Resources Management System /太陽光発電などの分散型エネルギー資源(DER)を管理するシステムの略称)を開発し、実証試験を行っています。NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称です。

太陽光発電を遠隔でコントロールするための装置であるスマートインバータ

早稲田大学との産学共同研究で、太陽光発電の課題に挑む

太陽光発電は、日中に晴天が続くと発電量が増えて、その電気を使い切れないと発電量が使用量を上回り、「需給バランス」が崩れます。この状態を回避するために、私たちは早稲田大学と共同で、太陽光発電を遠隔操作でコントロールできる機器やシステムの開発に取り組んでいます。今回は、早稲田大学の芳澤信哉さんとともに、その共同研究についてお話したいと思います。

前田「東京電力と早稲田大学は、以前からさまざまな共同研究を行ってきましたが、私たちが一緒に取り組んでいる現在の研究は、早稲田大学さんに声をかけていただいてスタートしたんですよね」
芳澤「太陽光発電のコントロールは、最終的には電力会社さんが担うことになるのですが、そのシステムを開発する過程では、大学が持つ方法論や手法を利用し、一緒に取り組むのが合理的ではないかと、早稲田大学研究院教授の石井英雄先生が提案されたのがきっかけです」
前田「電力会社は、設備やシステムの運用面での実績はあっても、それを構築する段階では、専門家の方々の優れた手法や方法論が必要ですから、早稲田大学のみなさんが、その部分を担ってくださっていることをたいへん心強く思っています」
芳澤「研究がメインである大学にとっても、学術的な手法が実際に使えるかどうかという運用面について、電力会社さんの意見をお聞きできることはすごく心強いです」
前田「それぞれの背景は違っても、お互いの得意分野をいかすことで相乗効果を生み出すことができますね。そのおかげで、太陽光発電を遠隔でコントロールする試作機の開発に成功し、今は、実際にそれを使って検証する段階にまできました。とはいえ、ここまでの道のりでは困難なこともありました。これまでにない新しいシステムを作るので、その仕様を決めるのが難しかったですし、共同研究に携わっている多くの方々の意見をまとめ、調整するのもたいへんでした」
芳澤「私は、共同研究の場合はいつもより学会発表の準備に時間がかかることがありました。でも、共同研究で得られた成果は、それ以上のものでした。アメリカのカリフォルニア州で、最先端の設備やシステムを視察したこともよい経験になりました」
前田「アメリカ視察は、海外の電力会社の取り組みを知ることができ、私にとってもたいへん有意義でした。夜は芳澤さんとカリフォルニアワインを飲み交わし、親交を深めることができたのもうれしかったです。ところで芳澤さんは、電力会社への就職を考えたことがあるそうですね」
芳澤「実は東京電力へ入りたかったのですが、東日本大震災があり、残念ながらその年の新入社員の採用がなかったんです」
前田「実は私も、研究者の道へ進むことを考えたことがあります」
芳澤「それじゃあ、逆の立場で共同研究に携わっていたかもしれませんね」
前田「私は就職活動の段階で、運用者の側から、暮らしに欠かせないエネルギーに貢献したいと思うようになり東京電力に入社しました。でも、もし逆の立場になっていたとしても、同じ目標を目指し、きっと一緒に共同研究をしていたでしょうね」
芳澤「そうですね。日本のエネルギー産業に貢献したいという思いは同じですからね。そのために、大学と企業が連携して課題を解決し、積極的なチャレンジを続けながら、世界一の技術を目指していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします」
前田「システムの実用化というゴールへの道はまだ続きますが、その目標に向かって、ともに歩んでいきたいと思いますので、こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

(写真左)早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科
助手 博士(工学)の芳澤信哉さん

タッグを組んで共同研究に取り組む、早稲田大学と東京電力のメンバーたち

再生可能エネルギーの導入拡大は重要なミッション

太陽光発電をコントロールするシステムの開発は、日本国内には前例となる基準がほとんどなく、一つ一つの仕様を決めるうえでは迷うこともあります。そんなときは、早稲田大学のみなさんをはじめ、国内外の専門家の意見も聞いて回り、ベストな判断ができるよう力を尽くしています。新しいシステムの開発は簡単ではありませんが、自ら考えた仕様がガイドラインとなり、標準化につながるかもしれないということが、日々の大きなモチベーションにもなっています。
そして、太陽光発電を自在にコントロールすることができるようになれば、コストや燃料費、CO2の削減だけでなく、太陽光発電が小規模発電の担い手となり、未来へ向けて新しい価値を生み出していくことも期待できます。

私たちを取り巻く電力事情は急速に変化し、それに伴い、再生可能エネルギーの果たすべき役割も大きくなっています。そうした状況のなかで、再生可能エネルギーの導入拡大は、電力会社の重要なミッションです。だからこそ、これからも、再生可能エネルギーと電力の安定供給を両立するため、多くの仲間たちとともに、必要な技術の確立にしっかりと取り組んでいきたいと思います。

プロジェクトを推進する仲間たちと

関連情報

  • 「再生可能エネルギー導入拡大に向けた取り組み」をご紹介しています。

  • 「東京電力報」

    電気を絶え間なく送るために重要な役割を担う、東京電力パワーグリッドの中央給電指令所

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